自分で言うのも何だけれど馬鹿みたいに早熟な、端的に言えば増せた子供だったから、子供心に違和感をずっと感じていた。例えば迎えに来る親が、他の子供のそれと比べて妙に年の行っていること。周りで交わされる囁きの声。並んだ写真の顔立ち。だからきっとそうなのだろうと思ってはいた。十分に推測のできることだったし、それでもよかった。環境としては決して不満足なものではないのだから。むしろ欲しかったものに関しては他よりもずっと満たされていた。
　並んだたくさんの本棚をいっぱいに満たすだけの本。獣たちを躾けるための、また助けるための様々な道具。両親が獣たちを飼い慣らすのを間近に見られる生活。彼らが職業として掴んだ地位と名誉の大きさを肌で感じられるだけの暮らし。
　憧れが募るのに時間はかからない。ただ自分もそうなりたいと思ったし、両親が自分をそうするつもりであるということも、あの年でもう理解していた。けれどもただ、そうなるためには決定的に、そして致命的に足りなかったのだ。ただひとつが。
　近づいて行けば獣は威嚇し牙を剥いた。当然飼い慣らすことも従わせることも、そんな調子では望むべくもない。有無を言わせぬ才能の欠乏、あるいは欠陥とも言うべき特異なマイナスの天賦。
　それに気付きだした頃から両親は言い訳を並べ立てるようになった。できなくてもいいと。今の今までできるつもりでしかなかったことに、僕がとうに気付いていることを知らないまま。そういう子供にすべてを受け継がせるために貰われてきた子供が自分であると、僕が既に察していることを知らないまま。
　繰り返される言葉を聞き続けているうちに馬鹿馬鹿しくなった。ある日にふっと思い立って、彼らが手ずから支度してくれた、使われないままだった旅のための装備を携えて、僕はぱっぱとあの家に誰も聞いていない別れを告げた。

　あの家に戻るつもりはもはやない。才能がないと彼らに断じられたその分野で、僕はそれを補って余りあるだけの手段をもう生み出している。扱う彼らはいくら人を超えた力を持とうと結局は獣そのものだ。本能と習性に逆らえず、規定されたように刷り込まれた行動を取る。それに逆らわずに、命じることなく、従えることなく、しかし目的を遂げるように。そう場を作り上げることさえできればいい。それに気付くことができたのが幸いだった。今や援助も逃げ場も必要としていない。同業者として先駆者として敬意は抱いているつもりだけれど、言ってしまえばその程度だ。養父母がどうこうが理由になるほど、どうやら僕は情に厚くはないらしい。
　勘違いされ続けるうちに言わなくなったけれど、僕が嫌いなのは血統の隠し立てでも、才能がありそうだから貰ってやったという理由でもない。それらは僕にとり嫌うべきことではなく、むしろ好むべき目的に向けた合理的な選択だ。
　僕が嫌いなのは彼らの愚鈍さだった。
　できないことを補おうともさせないこと、有能さを買っているくせに肝心なところでそれが無いような扱いをすること。
　その停滞と矛盾が、僕は吐き気のするほどに嫌いだった。

オレは料理しないからねー、と笑いつつ

ひとに餌をもらって、家畜のように生きるのがオレにはできない

……相手の鼻をあかすか

なら……すべてを諦めて……

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