■ 巨人の跫

マニー親分の一行がお城の中の山に偵察に入った夜のこと。
相変わらずおかしな化け物に襲われはしたが、それ以外は何てことない山だ。

「親分、本当にこんなところに城攻めの手掛かりがあるんですかい」
と、野営の準備をしながら乾分のハチベが尋ねる。
「さあなぁ」と返す親分は落ち着いたもんだ。
「ま、とにかく上まで行ってみねえとわからねえな」

そんなこんなでのんびりと体を休めようとした一行。
だが、お城の敷地内じゃァそう簡単に休ませてはくれないらしい。


皆が寝静まった夜中のことだ。
突然、ずしん、という大きな音と地揺れが山に響いた。
いったい何事、と親分が目を覚ましたのも束の間、
続けてまた、ずしん、ずしん、と音がする。

「親分、あれァ一体なんでしょう」
寝ぼけ眼だったハチベも一気に目が覚めたようだ。
一行は急いで天幕の外に出るが、辺りは真っ暗で何も見えない。
その暗闇の中の、少し離れたところから矢張りずしんずしんと聴こえてくる。

「親分、あれはまさか巨人が歩き回ってる音じゃ」とハチベは震える。
「そんなでかいのがいたら、昼に見えていそうだがな」と親分は考える。
「とにかく、この暗い中じゃどうしようもねえ」
と言って、親分は交代で歩哨を決めてまた寝始めちまった。

暫くして音は止んだが、怖がりのハチベは一睡も出来なかったとさ。


さて、翌朝になって問題の音のした方へ登っていく一行。
しかし大分登っても別に巨人の足跡なんかは見つからない。
親分の言った通り、岩ばかりの禿げ山だから見逃す筈は無い。
ゆうべの音は一体なんだったのか、いよいよ謎になってきたその時。
「あ、この先に何かありますよ」と、空から偵察していたハチベが叫んだ。

ハチベが見つけたのはひょろ長い木の小さな林だ。
山の上らしく碌に葉っぱも無いので見通しはいい。
「これじゃあ巨人がいても隠れられそうにありませんね」とハチベ。
だが、親分はその林に向かって歩き出した。
「ま、空の怪物避けにはいいだろうしな」と言いながら、何か考えている様子。

そして、林に近付いた親分は、はっと何かに気付いて身構えた。
「おっと、お前ら気を付けねえ」と手下たちに叫ぶ。
と、それに続いてめりめり、という音がしたかと思って見たら、
なんと目の前のひょろ長い木がこちらに向かって倒れてくるではないか。

「あぶねえ」とハチベたち乾分は何とか避ける。
ずしん、と木が地面に倒れた音は、まさに昨晩の巨人の跫だった。
いち早く見抜いた親分は鞭を構えて倒れた木の根元へ近付く。
「矢っ張り罠だったか」と見回すと周りの木には切れ込みが入っていた。

「この辺りであのでかい音を立てそうなものは岩か木ぐれえだからな」
と辺りを警戒しながらも素早く絵解きをする親分。
「こんなあからさまにおかしな林があらァすぐにわかるぜ」
そして、じろっと目の前の木陰を睨むとこう叫んだ。
「もう同じ手は通じねえぜ、大人しく出て来な」

と、目の前の木の影を思ったより小さなものが横切った。