どういう事だろう？
　何度考えても分からない。

　あの恐ろしい人たちとの戦いから一晩経った。
　私はほとんど眠れなかった。
　私の手の内はまるで筒抜けで、悪足掻きに回復しようとしたことさえ見抜かれていた。
　きつい反撃を食らった瞬間、私の体が崩れた。
　私の輪郭が歪んで、黒い腕がいくつも生えては腐り落ちた。腕の表面には沢山の目（ああ畜生、私とそっくりだった）が現れては潰れて消えた。私のものでない視界がいくつもいくつも脳裏に広がっては閉じた。
　手足どころか腰から下までが不定形の黒い塊になり果てたところで、私の記憶は途絶えた。

　目を覚ました時、私の体はいつも通りだった。
　襲われて悪い夢を見たのだと思った。思い込もうとした。自分の周囲に飛び散った黒い液体を見るまでは。
　ああ、今になっても思い出すだけで体が震える。少しでも気を抜いたら、またあの姿になってしまいそうで恐ろしい。
　そしてもっと嫌なのは、私は「アレ」を見たことがあるということだ。
　おかしい、私は逃げおおせたはずだった。
　私は愚かにも、あの子を置き去りにしてまで逃げたのに、それなのに私の体にもアレが巣食っているというのか？

（それとも、もしかして、）

　……嫌、違う、嫌だ、そんなことは考えたくない。
　第一矛盾だらけだ。説明が付かない、ありえない！

（スギ、に）

　そうだ、

（スギに、電話、しないと）

　兄弟子の顔が頭に浮かぶ。よほど私は不安定になっているらしく、あのしかめ面が恐ろしく恋しい。彼なら、彼なら何か知っているんじゃないかと、根拠のない希望が浮かぶ。
　しかしその一方、私は自分の携帯電話に手が伸ばせずにいる。
　動かした途端、体が端から黒く崩れそうで。

男は一人で考え込んでいる。

言葉を聞いてから大きなため息をつき、髪をぐしゃぐしゃと掻き回す

　

　

にっこりと微笑みつつも痛みを和らげるようにさすっている

　

やっぱり独り言と思ってたのかと苦笑いしつつ話に耳を傾ける

紫鯤に抱き上げられたサラマンダーに顔を近づけて指先で顎を撫でるようなそぶり

　

　

　

男は何かぶつぶつと独り言を言っていたが、やがて一つ深呼吸をし、声を張り上げた。

声色は明るいが、その声にはどこか不自然さがある。