セリィおねえさん。

猫とおんなじくろいけがわときんのひとみをもつおおかみのおねえさん。
猫にいつもやさしくしてくれるおねえさん。
猫のもんだいをしって、きずつけてなお、猫をやさしくだきしめてくれたおねえさん。




そのおねえさんが――







なんで？
どうして？
そんなめでみるのだろう？

まるでばけものをみるかのような――









おねえさんにせをむけてはしりだした猫はただ、ひたすら、ひたすら――
いまはただ、なんにもかんがえずに、われをわすれてはしりつづけました。















「――おい！！」



あとからおいかけてきたししょーたちが、ようやく猫のもとへたどりついた、そのとき。
猫はひざこぞうをかかえてうずくまっていました。



「急に走りだしやがって、一体何なん――」


『小生は――』


『小生は、すこしまえまでみんなをまきこみたくなかったから、みんなにきらってほしかったのです…』


『だから、こうなっても、あたりまえ、なのに――』


『だいすきなひとにきらわれるのって、やっぱり、つらいのです…』


『これで、ほんとうに…うまくいくのです…？』


『おねえさんは――小生がちからをうまくふうじこめられれば…また、わらってくれるのです…？』







なみだでぐしゃぐしゃになったかおをあげながら、猫はすがるようにししょーにたずねました。






「おめぇ・・・・・」


ぜったいだいじょうぶ、なんてきやすめをいえるはずがない。
ししょーは、猫にかけてあげられることばがありませんでした。


ちんもくがあたりにひろがります。
そのあいだに猫はなみだをふくと、おちついたのかにっこりわらいました。



『もう、だいじょうぶ、なのです。はやくいかないとなのです！』


そのえがおは、しかし、やっぱりむりをしているようにしかみえなくて――


「………」


ししょーたちはけっきょくなにもいえないまま、さきへとすすむのでした。

沈黙すること数秒。そうして、続ける。

再び目標物を置き、やや大きめの声で呼びかける。

答えをきいて、やや考える。

状況を限定して、再び問う。

そっぽを向いてはいますが、黒猫の姿はどう見ても
「小さなサングラスを鼻の上にちょこんと乗っけているロク＝リクくん」でしかありませんでした。

困ったブルーノお兄さんはロク＝リクくんのこの変装が何を表しているのか頭を捻りましたが、
やがて先程自分の放った「ケットシー」という単語を思い出し、心の中で小さく頷きました。

全身燃え盛りながら迫る姿は既にホラーの域だ。

　　　　　ラピスに炎上を1追加！

ちょっと遠い目をして力ない笑みを浮かべた。

うむむ、と唸って考え込んだ。
が、答えが出なかったのか、ししょーの言葉に

何も考えてない顔になってそう答えた。

言われて、どこか困ったように笑ってしまったけれど、ふと気付いた。

尻尾をぱたぱた。
多分ちょっとずつ、『感情』を理解し始めている――という事だろう。
ぎゅっとされれば自分もぎゅぎゅっと返して、尻尾もぴーん！
『珠』の事も、『キーエにはないしょだよ』なんて、筒抜けてしまう事も忘れて、もこもこ指の一本を立てて見せた。

尻尾をぱたぱた、小龍もそう願って、うんうん頷き。

同じようにぎゅっと拳を握って。
なんだか同じように思える事が、ちょっとだけくすぐったくて、ちょっとだけどこか嬉しい。

どうかな、一緒かな！？なんて、どきどきと答えを待つ。

どう過ごしてきたか――なんて、そんな大層な思い出は小龍に無かったけれど、その中でひとつ、見つけたようにまたもぐぐっと拳を握った。
どうかな、このお話しなら少しは面白いかも！？なんて。