『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.18.17:20、とある廃墟にて――


　パンドラと名乗る人物の手に一冊の本が現れた。彼女は
ぱらぱらと頁を捲り、本を閉じた。この電脳の世界で
何らかの情報を得る手段なのだろうか。
「御免なさい。惑星『アース』の人間としか教えられないの。
一応見た目通りの女です。この衣装はこの世界での
イメージですが、外見は同じですよ。体格に多少の誤差は
あるかもしれませんけどね」
　黒表紙に金の装飾が施された本をぱらぱらと捲る。
「情報収集しながらお話しして御免なさいね。
こうしている間にも、事態は深刻になっておりますので……」
　やはり本は情報を引き出す媒体のイメージらしい。
「そんなに忙しいなら、暇な時に話しかければいいだろう？」
　彼女は首を振った。本の頁を開き、本に目を落とす。
「いえ、今すぐに貴方と接触する必要がありました。
貴方に侵入するウイルスを食い止めるために。感染直前でした。
ぎりぎり間に合ってよかったわ」
「ウイルスを食い止めるだって？」
　彼女の言葉よりも、俺自身の反応が遅かった。何らかの
ウイルスに対するワクチンが送り込まれており、感染を
防いだという結果が出ていた。
「……このワクチンとウイルスは何だ！？　いつの間に！？」
　許可した覚えのない新種のワクチンが入っていた。その
ワクチンは未知のウイルスによる感染を食い止めていた。
　彼女は微笑む。
「だから言ったではありませんか。今すぐ接触する
必要があったと。ワクチンを送り込んだのは私です。貴方に
ウイルスを送り込んだのは、貴方の本体に接触した人物です」
「俺に接触した人物？　いや、それも気になるが、
何故、それを知り、俺を助けた？　お前は何者だ？」
「私が何者か……それはお教え出来ません。ただ一つだけ
言えることは、少しだけ未来を読めるということでしょうか。
私が読んだ未来は、貴方にウイルスを感染させようとする
人物でした」
　本を捲りながら答える。
「貴方の未来を読めたものですから、お助けしたくなった。
ただそれだけのことですわ」
「未来を読んだだって？　そんなこと出来る筈がない。
非現実的な話だ」
　馬鹿馬鹿しい話だ。科学技術が進歩した現代においても、
未来を読める方法なんてない。人間の描く空想世界の産物だ。
「確かに……非現実的と思われるでしょうね。ですが、
私には本当に読めるのです。本さえあればね」