(※今回の日記も本編とはあまり関係ありません。
　 以前からの日記の続きですので、
　 以前の日記を読まないと分からない部分もあるかもしれません。
　 諸般の都合により日記が途絶えるかもしれません。
　 なるべくかくよ！よ！期待しないで待っててね！)

荒野を抜けた、小さな森の中心にある魔女の塔へとたどり着く。
塔の前には三つ首の番犬。
爛々と紅い瞳を輝かせ、
口の中には炎が見える。
――地獄の番犬ケルベロス――
そんなものを門番におくとは、
ここの魔女は基本を押さえているらしい。
まるで童話のような世界。
だからといって、
私がやる事は変わらない。
ただ、制圧し、
目的を果たすのみ。
今の私の世界にはびこる、
死という概念から程遠い童話、
御伽話の世界であればまだしも、
ここは、人が生き、
死んでいく現実を内包している世界である以上、
私の歩みを止める事は、
止まりはしない。
例え冥府の番犬であろうとも、
物量で押し切ればいいのだから。
そうと決まれば話は早い。
荷物を適当な所に置いてケルベロスの前に歩み出る。
すると――
『そこより前に進むのであれば、
　お前を喰らい殺す。
　ここより先は汝等が来るべき場所ではない――』
律儀にも、
私に向かってここより先に進むなと警告してくる。
が、当然の如く私はそんな言葉に従うわけもなく、
気にせず前に進む。
その様子をみて躊躇なくケルベロスは、
私へと飛び掛り、
首へと喰らいついた。
――私の皮膚を、筋肉を、骨を砕く音、
そして、それを租借する音。
襲い来る激痛、
喪失していく私の体、
喰われ、溶けていく私の体。
私はなす術もなく喰われていく、
その全てを。
飛び散る血潮、
残されたのは私の残骸。
あまりにも、
あまりにも呆気のない私の最後。
この程度でよくもここまで来て、
警告を無視したものだとケルベロスは呆れる。
まぁ、味は悪く無かったとケルベロスが元の位置に戻ろうとしたのを、
“私は見た。”
ずるり、と一糸纏わぬ姿で、
私は立ち上がる。
まるで、何事もなかったかのように。
だが、
確かに私は食べられた。
その残滓は地面に残された血潮と、
服や、身体の残骸が指し示している。
その様子をみて驚愕するケルベロス。
それはそうだろう。
確実に葬ったと思った相手が、
全くの無傷でそこに立っているのだから。
悪夢か、幻覚かと思いたくても、
口の中に残った私の味が、
肉が其れを否定する。
確実に私を仕留めた、
確実に喰らった。
生きているのはありえない、
無傷なのもありえない、
幻覚なのも、
夢なのもありえない。
ならば……
『め、面妖な！
　ならば地獄の業火で焼き尽くしてくれる！
　貴様が何人であれ、
　地獄の業火に焼かれれば――』
驚異的過ぎる再生能力、
ならば不死者か何か……
とケルベロスは考えたのだろう。
三つの口に炎がともり、
灼熱の業火を私目掛けて噴出す。
当然の如く、
私自身に防ぐ術は無い。
否、
その気になれば、あるのだが、
それをするつもりはない。
故に、
不死者の魂すらも焼き尽くす業火は私を焼き尽くす。
熱い、
熱い、
熱い、
そんな事を感じる暇すらなく、
激痛すらも生ぬるいその炎はあっという間に私を焼き尽くし灰へと変える。
否、
灰すら飽き足らず、
灰をも焼き尽くし、
文字通り塵一つ残さず焼き尽くす。
その様子をみて、
今度こそ終わったかと一つ息を吐くケルベロスに、
私は声をかけた。
当然の如くといわんばかりに、
傷一つない姿で。
「で、満足したかしら？」
と。
その声を聞き、
私の姿をみて、
怯えたような声を出すケルベロス。
『馬鹿な、何故……！
　そんなはずはない！
　確かに喰らったはず、
　確かに焼き尽くしたはず……！
　何故だ、
　何故傷一つついていない！？
　貴様は、貴様は一体……！』
「答える必要はないわね。
　まぁ、流石に痛いし……
　そろそろいいわよね。
　こちらからいくわ。
　とりあえず……
　そうね。“伏せ”」
決して、ケルベロスの攻撃は効いていなかったわけではない、
十二分に痛かったし、
確実に私を殺している。
ただ、私は死ねないだけで。
心折れるまで攻撃を喰らい続けてもいいのだが、
獣の怯える様子なんて見ても大して面白くもなんともない。
もう少し可愛い動物ならともかく、
少しどころか大分いかつ過ぎれば尚更である。
だから、遠慮なく命令する。
その命令と同時にがくんとケルベロスの身体が地へと崩れ落ちる。
まるで、そうあるのが正しい形だといわんばかりに。
だが、流石に本当に冥界の番犬というわけではないのだろうが、
似通った存在なのか、
何がそれをなしたのかには気づいたのか――
『死、死霊、しかも力をもたない弱い存在が集まって……
　いや、これは……
　荒野の魔獣達も……
　き、貴様……
　一体自分が何をしているのか……』
「分かっている、
　というか残念ながらこれが私の特性よ。
　そして、私の呪いの一つ。
　まぁ、“黙りなさい。”」
『……！
　……！？
　…………！！』
だが、聞き慣れた言葉など聞く気はない。
そんな言葉はもはや私にとって意味などは無い。
ただの命乞いの囀りに過ぎない。
敵、でないのであれば聞き入れたかもしれない。
けれど、敵でしかありえない。
ならば、打ち砕くしかない。
『…………！！』
「さようなら。
　“死になさい”」
その言葉とともに、
ケルベロスの身体ははじけ飛ぶ。
数による暴力、
気づいた時にはもう遅い。
下準備も荒野の魔獣を殲滅した事ですんでいるが故に、
よほど……
予想外なほどに圧倒的な力をケルベロスがもっていたなら、
また変わっていたのかもしれないが、
その力がさして桁外れというほど強くないのだから当たり前である。
そして、死したケルベロスの霊を捉え、
置いておいた荷物から着替えを取り出し着替えながら、
霊達に命令する。
塔の中の罠を駆逐し、
私の歩みをさえぎらぬように。
そして、
私は悠然と魔女の塔に入っていく。
罠も呪いも、
霊によってズタズタにされていく、
残されたものが時折私に降りかかるも、
元より死なず、
呪われ過ぎたこの身に呪いをかける事は出来ない。
何事もなく塔を上り、
最上階と思わしき扉の前へと立ち、
遠慮なく扉を押し開けた。
扉を開いた先にあったのは、
いかにも怪しい雰囲気の品々、
煮え立つ大釜、
まさに魔女の居城に相応しいと思っていたら、
魔女の姿には少し驚いた。
黒い服、黒いとんがり帽子なまではいい、
よくある魔女の服という奴だ、
だが、３０くらいのグラマラスな女性だった。
正直、
私としては鷲鼻の老婆だったら面白いのにと思ってた分、
少し残念だった。
そして、鳥かごに囚われたとてもカッコいい金髪の王子様の姿。
まぁ、あれだけ煌びやかな服を着ているところから、
間違いないだろう。
そして、私が扉を開けたのに気づかず話している様子なので、
少し聞き耳を立ててみると……
「さぁ、私のものになる覚悟はもうできたかしらぁ？」
「ふざけるな魔女め……」
「こんなに綺麗なお姉さんがいってあげてるのに、
　聞き入れないなんて変な子ねェ。
　聞き入れれば王国の反映も、
　かけた呪いを解くことも、
　思いのままなのに、
　何故そんなにかたくなに拒否するのかしらぁ？」
「聞き入れるわけが無いだろう……
　たとえ私を手に入れたとしても、
　お前はお前の欲でしか動かない。
　そして飽きたら捨てるだろうに……
　頷いても破滅しか待っていない取引にどうして応じれる！」
「あらぁ……酷ぉい。
　間違ってはいないけどぉ……
　そんな風にいわれると傷つくわぁ。」
どうやら、魔女は王子に自分のものになれといい、
それを王子は断り続けているらしい。
そして、そうやって王子が噛み付くと……
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！」
指で王子に触れて電撃を流し苦痛を与える。
王子の精神が折れるまで、
苦痛を与え、
優しい言葉をなげかけ、
自分に従順にしていく算段なのだろう。
心を操ったりしないのは、
恐らくその様を楽しんでいるからなのかもしれない。
それを肯定するかのように、
魔女は笑っているのだから。
まぁ、そんな状況に出くわしたなら、
私がやるべき事はたった一つ。
「あら、御機嫌よう。」
気軽に挨拶をする。
その声で、王子も魔女もこちらをみる。
二人とも驚いたような表情を浮かべ、
口をぱくぱくさせているので、
「あら、どうかしたのかしら？
　私がここにいることが不思議？
　まぁ、どうでもいいけど、
　そこの囚われてる人返してもらえないかしら？
　穏便に済むならそのほうがいいでしょう？
　違うかしら？」
そんな二人に向けて遠慮なく言葉をかける。
そんな言葉で冷静さを取り出したのだろう。
魔女が私を指差し――
「何者かしらないけど、
　よくもここまでこれたものねぇ……！
　ケルちゃんも、
　私の仕掛けた呪いも罠も抜けてここに来るなんて、
　どうやったかは知らないけれど、
　私が気づいたのが運の尽きよ？
　それに、私はぁ……
　あんたみたいに若い女が大嫌いなのよ！
　――豚になれ！」
私に向かって指先から光を放つ。
恐らくは相手を豚に変える魔法なのだろう。
だが、この手の変化魔法は私にとっては呪いと同質。
で、あるが故に……。
「……で？
　それがどうしたのかしら？
　豚になれ？
　いやよ。私は私だもの。」
その魔法は私に効果を及ぼさない。
余裕を持って笑う。
その様子に頭にきたのだろう、
魔女は――
「わ、私の魔法が効かないですって……！？
　ふ、ふざけないで！
　私は世界一の魔女なのよ、
　貴女が誰か知らないけど、
　私に出来ないことも、
　勝てない相手もいない！
　いいわ、なら物理的に葬ってあげる。
　後悔しても遅いわよ！
　――踊れ炎よ！」
ケルベロスの炎を超える業火、
そんな一撃を受けて耐えれるはずも泣く、
私は蒸発する。
残されたのは焼け焦げた痕のみ。
それをみて魔女は高笑いをあげる。
「ふ、ふふ……
　あははははははははははははははははは！
　どう！
　どうかしら！
　私の炎は、
　たとえケルベロスに勝てたとしても、
　私はあれよりはるかに強いのよ。
　流石にこれには耐えれなかったみたいね、
　無様な女……
　私にこんな気分を味合わせてくれた例はどうしようかしらぁ？
　そうねぇ……」
「酷いわね。
　服が燃え尽きちゃったじゃない。」
勝利を確信し、
自分の世界に入り込んだ魔女を引きもどすように、
声をかける。
「服だってそう安くはないのよ。
　まぁ、気にならないほどには稼がせてもらっているけど。
　で、これで終わりかしら？」
「ッ！？
　な、何故効いていないの！？
　そ、そう、
　ケルベロスを倒しただけあって、
　炎には耐性があるのねぇ。
　なら……
　――凍てつき砕けよ！」
両手を広げてやれやれという私に、
今度は吹雪を浴びせかける魔女、
その吹雪はあっという間に私を氷漬けにし、
一瞬にして私を砕け散らせる。
その様子をみて今度こそしてやったりという顔をして。
「全く……焦らせてくれるわぁ……
　でも、まぁ、流石にこれには耐え切れないでしょ。
　もう、本当に嫌になっちゃう。
　思わず本気になっちゃったじゃない。
　弱い癖に出張るのがいけないのよぉ？
　まぁ、聞こえてないでしょうけどぉ。」
「そうね。
　残念ながら聞こえてるわよ。
　まぁ、弱くてわるいけど、
　見てのとおりね。」
だが、何をしても、
殺せない相手に意味は無い。
なので、煽れるだけ煽る。
「私には全く効いてないわよ、魔女さん。」
そういって鼻で笑う。
下手な手を使われるほうが後々面倒、
相手からの全力攻撃を誘発し、
相手の消耗を狙う。
プライドが高く、
自分より優れたものはいないと思う魔女相手だからこそ効果的。
すぐに乗ってくる。
「……ふ、ふざけんじゃないわよ、
　この……このクソアマァ……！
　私は世界一の魔女よ。
　そんなこと、そんなことあるわけないわ。
　そうよ、
　きっと貴女は何か変なことをしているのね。
　いいわ、いいわよ、
　貴女がどんな小細工をしてようと、
　私の魔力で消し飛ばしてあげる！
　――風よ、切り裂け！
　――雷よ、貫け！
　――闇よ、飲み込め！」
風が私を切り裂き、
雷が私を穿ち、
闇が私を飲み込んでいく。
いずれも私を殺すに十二分、
否、
私どころか、
軍隊すらも一瞬で消滅させるに十二分だろう。
だが、私に届かないというか、
意味が無いのだ。
死のない女に、
死をもたらした所で、
死なないのだから結局の所……
「嘘……でしょ？
　何なの、何なのよ、
　あんたは一体……！
　ふざけないで……！
　どうして……」
いくら攻撃を繰り出した所で結果など同じでしかない。
「どうして傷一つついていない……！」
その言葉に私は嗤った。

一旦断ろうとしたが、やはり蜘蛛封じの香は己にも辛く、香炉を手渡し。

ハンカチも断わり、口鼻を押さえるのは自分の手拭いを用いる。

腐臭と、香水と、香の煙と、薄荷と、
臭いのカルテットってどんな拷問だよ。