【背後霊の独り言】
ネタの暴投は続く。
そろそろ完全過去回想もしたいという欲がむくむく。

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　みんなでピクニックに来たら、突然庭師に襲われもしたが、何とか撃退して事なきを得た。
　その折、城内へ進む道も発見したのだが、それよりも星屑の小川を下った先で巨大なイカ焼きが名物だと言う噂が気になったので、そちらを優先することにする。
　あまり大食いに自信のないフィンとしては、ふと記憶の片隅を過ぎっていった朱色の髪をした少女に、イカ焼き完食を手伝って欲しいような気持ちもあるが、周囲を見回してみてもそれらしい人物はいなかったので、半ば諦めている。
　或いは、モノクロの眼をした少年も、かなり大食いに強かったような気もするが、これまた該当する人物は周囲にいなかった。

　ちなみに同行しているエンブリオたちは揃って「イカ焼きが目的だったっけ…？」と首を傾げたものだが、フィンは気づいていない。

「ところでさ、例の庭師襲撃事件の前にしてた話なんだけど」
「？　にわししゅーげき…？」
「あのインパクトでかいハプニングをもう忘れたの！？」

　水辺に戻るなり一目散に駆け出しては転倒して頭から着水してしまったフィンは、シルフラに怒られたので、現在大人しく岸に腰掛けて脚を水に浸すだけに留めている。
　少女の隣に座るシルキーは、水には触れようとせず、寧ろ距離を取るかのように膝を抱えた。

「シルキー、こうすると涼しいですよー」
「うーん、この季節に冷たい水って魅力的なんだけど、あたし、その水だめなのよ」
「あ、そっか。ごめんなさい。お魚さん、好きじゃないもんね」

　納得した風に頷くフィンに、シルキーはぱちぱちと瞬きをする。

「あれ？　あたし、その話したことあったっけ？」
「…？　『丘の可愛い人たち』は、お魚のにおい、嫌いじゃなかった…？」

　不思議そうな顔をするシルキーに、フィンもまた不思議そうに首を傾げる。
　しかしそれを聴くなり、合点がいったとばかりに頷いたのはシルキーの方だった。

「あー、そっか。フィンってこっちの文化に近かったのね。『丘の人々』なんて呼ばれたのは久し振りよ」

　うんうんと何度か頷いて、シルキーは勢いよく立ち上がっては、小石を拾って水面に投げる。
　一回だけ跳ねた石は、すぐにバランスを崩して沈んでしまった。

「あたしたち妖精は、鉄や塩水、魚のにおいが嫌い。だけど、漁師から網の最後に残った魚を貰うと嬉しいのよね。
　でもこれってかなり古い話よ。今じゃ妖精も悪魔もみんなひっくるめてエンブリオで、一様にプレゼントするならネクターって決まりきっちゃってるもの。
　フィンって普段はぽやーんとしてるのに、意外なところで物知りよね」
「え、物知りですか？　えへへ、なんだかうれしいです！」

　ぽやぽやと笑うフィンを見る限り、どう見たって外見より大分頭が緩いようにしか見えないのだが、と悩むシルキーには幸か不幸か気付かない。

「で、話は戻るけど、庭師の――あ、やっぱりいいわ。
　えーっと、その前に話してた、そうそう、『けーの』って人について思い出してたみたいだし、他にも忘れてたこと思い出してない？」
「けーの…？　あ、ケィノ？
　その他は、んー…　あ！　そうです、ケィノ、旅に出ちゃったんです！」
「……念のため訊くけど、フィンも一緒に旅に出てはぐれたってオチじゃないわよね……？」
「ううん。ネィロが、ケィノもちゃんと人のおべんきょうしないといけないから、て」
「え？　また新しい名前出てきたけど、『ネロ（黒）』？　って誰？　いや『けーの』が誰かもあたしわかってないんだけど」

　根本的に説明が下手なフィンがぽこぽこと名前を出していくせいで、シルキーはもはやメモを取るのも諦めつつあった。
　そして哀しいことに、フィンはどこまでも説明が下手だ。

「えぇと、えぇと――ケィノは、はじめてあったときは、わたしと同じくらいだったけど、すぐに大きくなって、レィアやモォドより大きくなって、ストーニクより大きくなって、メィアやサエルより大きいのかな、あ、でも、ネィロの方が大きいの！」
「いやごめん待って今一気に名前増えたわよね！？」

　難易度だけが駄々上がりするフィンの説明に、シルキーは慌ててストップをかけた。
　さっきフィンが何人分の名前を追加したのかすら、突然のことで数える余裕もなかった。
　指摘されたフィンの方も、あわあわと慌てていて、自分がさっき何人分の名前を追加したのか把握できていそうにない。

「え？　ええと、えぇと…っ」
「うん、わかった落ち着いて。まずは最初に言ってた、『けーの』が男性か女性かから教えてくれない？」
「んと…ケィノは、おとこのこ、です」
「男の子？　ああ、初めて逢ったときはフィンと同じくらい、とか確か言ってたわね。
　同い年くらいなの？」
「ううん」

　男の子、という呼び方から大体の年齢を推測したシルキーだったが、フィンがあっさり首を横に振るのであてが外れた。

「……フィンより年下？　いやでも、そのくらいの年齢なら、性別に因らず年上の方が背が高いと思うんだけど……」
「えと、えと…何歳だったかな、そろそろお酒がのめるくらい、て言ってたような」
「お酒が飲める！？」

　予想外のヒントだった。

「えっそれってフィンより明らかに年上よね！？　男の子とか言うからてっきりもっと子供だと思ってたわよ！？」
「わたしの方が年上ですー。だってね、ケィノ、わたしのことお母さんて呼んでくれたの！」
「えええええ！？　何で！？　どこがどうしてそうなったの！？」
「？　シルキー、どうしたの？」
「いやどうしたもこうしたも……っ」

　あまりにも突拍子もないフィンの宣言に、完全にうろたえていたシルキーだが、そこではたと頭の片隅で冷静な部分が閃いた。
　一つある。フィンの支離滅裂としか言いようのない証言に、力技ではあるが辻褄のあう条件が。

「……その『けーの』って男の子は、人間？」
「はい。定命の人間ですよ」

　人間、の前についた連体詞が、妖精たるシルキーにとっては決定打のようにも聴こえた。

「……フィンは、人間？」
「ううん、違いますよー」

　辻褄が合ってしまった。

「ケィノのこと思い出したら、いっしょにわたしのこともちょっと思い出したんです！
　えと、思い出したら……わたしと入れ違いに、ケィノがおうちに帰ってたらどうしよう、て気分にもなっちゃいましたけど……」
「それは、何と言うか……そんな残念な結末にならないといいわね」

　辻褄はあったが、フィンのペースがあまりにも変わらないので、段々とシルキーもフィンが何者かはどうでもいい気がしてきた。
　出逢いが出会いだったので、外見よりも長く生きているなんてこれっぽっちも思わなかったのだが、まあこの外見から老熟した発言が飛び出さない分、付き合いやすいといえばそれまでだ。




■シルキーのワンポイント妖精講座

（慌てて地図をひっくり返す。…左右逆に。）