修務のスケジュール帳
地下牢から城内に。
牢屋の中は空が多い。人はいない？

　牢屋と言う場所も、生まれて初めて入る。当たり前だが、一度も警察のお世話になったことはない。
　牢屋と言う独特の場所が持つ、妙な雰囲気が漂っている。
　この城の主や、城内の人間がどういう者たちかは知らないが、自分たちは所謂不法侵入者であることは確かなので、進むのも留まるのも慎重になる。

　牢屋の一室、一人で休憩しながら、修務は自身の緊張をしっかりと感じ取っていた。
　あまり騒ぐわけにはいかないから、エンブリオ達は一切出ないように言っている。あの姦しいエンブリオ達はゴレムとカーンが押さえているらしい。

　ふぅ。
　息をつく。

　ゴレムとカーンが押さえているのではなかったのか。修務は得意のキレ芸を見せた後、こめかみを押さえて目を閉じた。
　ちらりと見たエンジェルは、昔の姿だった。あの忌々しい白い布。修務は深いため息をついた。

　冷たくあしらう。会話をする必要なんてない。

　下手に構ってはエンジェルの思う壺なのだ。修務はそう気付いていた。必要以上に言葉を出さず、黙殺をした。
　休憩に集中するべく、目を閉じていると、閉じた瞼でも感じるほどの眩い光が牢屋の一室に放たれた。眉を寄せて、目を開ける。

　薄暗い牢屋なのだ、目を閉じてもわかる光など目立ち過ぎている。苛立ちを露わにエンジェルを睨む。

　煩わしい。修務は心底そう思った。苛立ちに胃がキリキリしだしたところで、修務の横にカーンが現れた。

　現れた頼りになるエンブリオに修務は微笑んだ。腹を押さえていた手を下ろす。彼が来てくれたなら安心だ。

　カーンが気遣わしげに修務の顔を覗きこんだ。暗がりの中では互いの顔をかなり近づけなければならない。カーンの顔の形状からして、息遣いを感じられることもないが――そもそも何処から声が出ているのか――、妙に近い事に修務は少し恥ずかしさを感じた。

　カーンの怪訝そうな声に修務はきょとんと眼を瞬かせた。カーンの指が修務の顎を捉え、顔を左側を向かせる。

　更に近付くカーンの顔、というより頭部。修務は黙って従って、右頬を見せていた。
　すると――

　エンジェルはかつてないほどの大きな声を出して、姿を消してしまった。