■ 雷神の山

マニー親分の一行はごつごつした岩山を登っていた。
大分登ったせいで空が近えが、生憎の曇り空でお天道様は見えない。

「しッかし、てえしたもんですねえ」と乾分のハチベ。
「お城の裏山も広かったが、庭の中にも山があるなんて」
と、新しく城の敷地内で見つけたこの岩山に驚いているようだ。
「ま、それだけこの城のことは世間に知られてなかったんだな」と親分。

「でも親分、こんなところで道草食っていていいんですかい」とハチベは訊く。
「玄関から攻めるのは兵法じゃあるめえ、まずは周りを調べるのさ」
と、さすが親分は下調べに余念がない。


そうこう言っているうちに、一行は妙な場所に出た。
急な坂道を登った先が、今度は下り坂になって谷のようになっているのだが、
そのちょっとした谷底に何やら黒くて背の高いものが沢山立っている。

「親分、ありゃあ」とハチベも気付いた様子。
「ああ、あそこは林みてえだが」と親分も頷く。
そう、あの黒いものは燃えて炭になっちまった木だったのだ。

一行が近付いてよく見ると、それは確かに燃えた木で出来た林だ。
親分の背の高さくらいまでは燃え残っているので辛うじて木だとわかる。
「こりゃあ、雷でも落ちたんでしょうか」とハチベは推理する。
「下の方が燃えてねえってことは、高いところに雷が落ちたってことでしょう」
「ほう、おめえにしちゃ良い読みだな」と、親分はにやり。
「でもこんなに雷が落ちるなんて、まさか雷神様でも棲んでるんじゃァ」
と、ハチベはいいところでやっぱり臆病な想像をするのだった。


だが確かに、人の背丈より高いところに火をつけるのは容易じゃねえ。
木々はどれも太くて火矢くらいじゃとても燃やせそうにない。
やはりこの辺り一帯に物凄い数の雷が落ちたのだろうか。
そう考えると、厚い曇の中からごろごろという音が聴こえるような気がしてきた。

「安心しな、こいつァ雷じゃねえよ」
だが、燃えた木をじっと見ていた親分はこう言い切ったのだ。
「上を見な。木の形がそのまま残っているだろう」と指さす。
「本当に雷が落ちたんなら、根元まで真っ二つになっているところだ」
と、おかしなところを見抜いていた。

「成る程、でもそれなら何で火がついたんでしょう」とハチベ。
「またいつもの化け物だろう」と親分は脅かす。
「例えば火を吐く化け鳥か何かが、餌場の見通しを良くするためにやったとかな」

「成る程、つまりあっしらみたいなのを化け物が餌にするってことですね」
と言って納得したハチベだが、言ったことの意味に気付くと震え出した。
「まさか、さっきから鳴っているごろごろって音は」と空を見上げる。

「ああ、雲の中の化け物が腹を減らしてるみてえだな」と親分は冷静だ。
「だが襲ってくるのがわかってりゃこっちのもんだ。返り討ちだぜ」
と、帽子の鍔を押し上げて空を見据えた。