猫尾族と天使、そしてメイドの三人の女性達と別れる。またこの先も会うこともあるかもしれないが、ひとまずは積み上がった予定を消化するところからだろう。
　ここ最近は誰かしらの案内をすることが増えた。この「不特定多数」の一人となる状況の中、誰かの顔を覚え、また話をする貴重な機会のひとつである。
　今回引率した三人は、一揆の参加者の中でも特別不思議な取り合わせであった。曰く、主人を持たぬメイドに乱獲に遭った亜人、そして天使であるという。
　私は宗教というものが嫌いだが（あるいは「宗教が嫌いである」という宗教であるといってもいい）、彼女はそれを気取っているのかいないのか、屈託のない笑顔で亞人である私に接してくれていた。
　彼女はあの蒸気の国の宗教のさす「神のつくりたもうたもの」とは別なのだろう。天使がいたことより、亞人の私に笑顔を向けてくれたことよりも、彼女はそういうものなのだと素直に受け止めている自分に驚いた。
　あの蒸気の国の宗教の根幹は「人こそが至上の存在であり、人ならざる人はその下に侍らされるべく生まれた劣等なる種である」。
　宗教を信じる理由こそなかったが、それを鼻で笑うほどの気概は自分にはないと思っていたのだ。蔑まれることが当然であり、それに反する言葉などただの泣き言に過ぎないのだと。
　この世界で、たくましく、笑顔で生きる亜人たちを見てきたからだろうか。環境は人を変えるのだなと、私は他人事のように自分の情動を眺めていた。

一通の手紙が貴女の元へ届けられる。
封の裏には最も親しみのある名が記されているでしょう。

いくらか空白が開いた先に、再び文字が記されている。