何と評したらいいのかは、判らない。
でも、確かに起こった何かを感じ取ってぼくらは、動かなかった身体が動き始める。

ぼく自体に何か迫っているか。
或いは、ぼくと縁が深かった誰かに、何か迫っているか。

駆けていれば、わかってくる。
距離が詰まってくれば、ぼくだけなのか。
ぼくを知る誰かが居るのか、判る。
どれくらいを、どんな風に駆けたのだろう。
――何かに導かれるぼくらはいつもその過程を留めていられない。
いつもいつも、ただ、縁が嗅ぎ取る気配を頼りに駆けて。
隣に居ることを、確かに感じて。
打って、打たれて。
庇って、庇われて。
けれどそうして戦が終われば、ぼくらはもう隣に誰かいた事が判らなくなってしまう。
そうして毎日を繰り返していく。
おそらくこうやって気配を嗅ぎ取って、走る事が遂に出来なくなってしまうその日まで。

駆けて駆けて、身体を包む気配が森のそれを感じた頃。
ぼくらは今回の縁が、リセナ殿のものであることを知った。
‥今の状態になってから、ぼくらはきちんと約束を果たせているんだろうか。
判らない。
勝ったか負けたか、くらいは判る。
けれど、その被害や状態がどうか、というのは今のぼくらにとっては欲しくても手に入らない情報だ。
見ること、嗅ぐこと、聞くこと。
そのどれかでも満足に機能していたならば――
ない物は、ないのだけれど。

それでも。
確かめる術を持たなくても、ぼくらが交わした約束は約束だ。
おねーちゃんを、守って、あげなくちゃ。

そうして、いよいよじりじりと空気が張りつめていく中で。

――ぼくらは漸く、その隣に、ぼくらが全く知らない誰かがいる事に気が付いた。

敵意は此方に向いてはいない。
恐らくは、縁のない、ひとなのだろうと思うけれど、敵ではないんだろう。
リセナ殿の、おともだちかな。

ぼくらが行っても、大丈夫かな。
――尤も迷うでもなく、脚は勝手に進んでいくのだけど。
横に並ぶよりも少しだけ前に、微かに竜が呻いた声が聞こえた気がした。

竜はしばらく、知らない誰かに戸惑っていた。
敵と相対して漸く肚が据わったのか、静かに、前に立った。

竜は、戦闘が終わると集中の糸が切れたように、行動の一貫性を失った。
すぐ傍に居るはずの知己を求めるように首を盛んに巡らせて――やはり、駆け去っていった。

（目をあけたままねむっている！）