『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.18.17:18、とある廃墟にて――


　再起動は完了した。思考のループが思考停止した
原因だったようだが、何を思考したのか記録にはない。
直前のバックアップから察するに、またグローリア博士への
感情について考えていたらしい。
　有り得ない。ロボットと人間の恋愛なんて有り得ない。
ロボットと人間の思考、身体的機能と構造……無理だ。
ロボットと人間の恋愛なんて不可能だ。
　思考をクリアにし、活動を再開しようとした。その時だった。
ひっそりと息を潜め、機会を窺っていたであろう何者かの
侵入を許してしまった。

　招かれざる何者かが、俺を何処かへと導いていく。
「誰かに繋がった！？　惑星『ネプティ』からか！？
いや、これは……惑星『プルトゥー』よりも遠いのか！？」
　ルートを偽装しているのか。バラバラなルートを
辿り着いた先は惑星『アース』からの侵入者だった。
　俺の目の前(思考の中)に緑溢れる自然の大地が
広がった。広大な草原に、雲一つ無い鮮やかな青空。
遠くに深い緑の山々が見える。今は大半を失ってしまった
自然の緑が、そこにあった。
「……旧の惑星『アース』か。かつては緑豊かな
大地だったそうだな」
　二つの街道から、二人の奇妙な女性が歩いてくる。
舞踏会でもあるのかドレスと宝石で着飾った若い女性だった。
どちらも同じ容姿、同じ衣装の女性だった。異なるのは
色だった。右の街道からは、金髪に青い瞳、白いドレスの
女性が、左の街道からは、銀髪に赤い瞳、黒いドレスの
女性が歩いてくる。
「お前は何者だ！」
　街道はやがて一つに繋がり、二人の女性は
ぶつかり合うこともなく、互いの姿を重ね合わせた。
一つとなった女性の姿は、白いドレスの方の女性の姿となる。
「突然の招待を失礼致しました。私はパンドラと申します」
　容姿、声。名……女性であるが、電脳の世界において、
それらを偽るのは容易い。本体は全く異なることもある。
目の前の女性も、電脳の世界におけるイメージでしかない。
その容姿、声、名も偽っているのかも知れない。
「ミライさん、私は貴方にお話ししたいことがあるのです」
　正体も知れない相手。しかし、俺の名を相手は知っていた。
電脳の世界での俺のイメージさえも……
「何処の誰かは知らないが、お前は俺の正体を知っているのに、
俺はお前の正体を知らない。不公平だろう。お前の正体も現せ」