(※今回の日記も本編とはあまり関係ありません。
　 前々回・前回の続きですので、
　 前回分の日記を読まないと分からない部分もあるかもしれません。)

王様に別れを告げて崇拝所を出ると、
やはり王宮というだけの事はある、
立派な造りをしており、
少し探ってみた所、
近くに兵士とかも配備されている。
私のような不審者をみれば、
きっと速攻捕まえようとするだろうが……
一番手っ取り早く用意をさせるなら丁度いい。
ふらりと、そのまま兵士の前へと姿を現す。
「！？
　何者だ！？
　どこから入った！？
　まさか――」
「まさか、何かしら？
　心配しないでも何かをしでかしたりはしないわよ。
　――国王と契約した魔女といえば分かるかしら？」
槍を構え、
私を牽制しながらゆっくりと近づいてくる兵士へと、
そういいながら指輪を見せる。
「証拠というならこれね。
　――心配しないでもすぐに出て行くわ。
　王子を攫った魔女の居所を書かれた地図の用意をお願いするわ。
　後、食べ物を幾許か。
　それさえもらえば勝手に行くわ。
　ああ、ついてこないでね。
　私は他の人の身を守るつもりなんてさらさらないのだもの。
　返答は？」
「ッ――確かにその指輪は、
　だが……」
「確認をというなら要求に答えるついでに確認してきなさい。
　どうせ様子を伺ってる人もいるでしょう？
　その人にやらせればいいわ。
　貴方は適当にくつろげる部屋に案内して。
　別に豪勢な部屋でなくてもいいわ。」
「……分かった。
　おい！
　すまないがそういう事だ！
　頼んだ、俺はこの人についておく。
　客人として守らねばならないからな。」
ここで、話が本当ならと口を滑らせたり、
即座に判断するあたり、
なるほど、質のいい兵士らしい。
実際嘘などついていないのだし、
安心して任せて案内に大人しくついていく事にする。
大人しくついていくと、
想像通りというか、
問題なく客室らしき場所に通される。
ゆっくりと時間が過ぎるのを待っていると、
さほど時間が掛からず、
別の兵士が別の地図と食料を持った袋をもってきた。
私のことを案内し、
見張っていた兵士はその兵士と会話を始めた。
恐らくは、
私の事の真偽を聞いていたのだろう。
そして、無事解決したという訳だ。
「さてと、それじゃあ早速出発といこうかしら。
　――きちんと解決するまでは戻らないから、
　その荷物を渡してもらえる？
　ああ、ついでに城の外まで案内してくれたら助かるんだけど。」
そして、私もこれ以上今はとどまる理由がないので、
何か兵士達が私に告げる前に要求を突きつける。
すると、
「はっ！直ちに。
　非礼申し訳ありません！」
即座に敬礼して対応する兵士二人。
全くもってこの城の兵士の質はいいらしい。
特にその後は問題なく城から出ることに成功する。
正直いって、
ここが一番面倒くさいところだとは思っていた。
変な兵士や
愚鈍な兵士であれば、
ここで確実にひと悶着ある事はみえみえだったのだから。
かといって、
王様が表立てば問題は回避出来たかというと、
恐らくは無理。
それはそれで変な問題に仕立て上げる輩がいないとは限らない。
故に、本当に僥倖だったように思える。
こうして、城を出て、地図を頼りに町を出て、
魔女の居城に安心して意気揚々と向かおうとした所で、
少し私は苦笑を浮かべた。
地図がかなり大雑把で、
距離がイマイチ掴みづらかった為である。
大体３日程度の道のりではあるようだが、
土地勘もなく、
かといってどんな基準で三日なのか分からず、
その上、
行く道行く道に難所ともいえるポイントがあるらしい。
ここまでばっちりお膳立てされたように険しい道のりを行くと思うと、
苦笑いの一つや二つでるのは当然だと思う。
そんな苦笑を浮かべつつも、
歩みを進める。
暫くは平坦な道。
そこから森に踏み入れて、
道なき道へと足を踏み入れた時、
空気が一変した。
あふれ出る死の匂い、
骨となった兵士の群れが、
まるで私が踏み入れるのを待っていたかのように立ち上がり、
武器を構え私に向かって歩み寄ってくる。
「成る程、死霊の森というだけのことあってまんまなのね。」
地図に森について書かれているのはただ一言。
森の名前が死霊の森であることのみ。
まさかここまでそのままの名前とは思ってもみず、
そして、
これがきっと魔女の仕掛けた最初の門番なのかと思うと、
もはや笑うしかない。
別に魔女が悪いわけではない、
実際、効果的で効率的といってもおかしくないと思うけれど、
「もう少し捻るなり、
　死霊だけに頼るのは芸がないわよね。」
ぬるい。
ぬるすぎる。
死霊だけでは対応がとりやすい。
単一であれば弱点は同じ、
弱点さえつけばすぐに崩れ落ちるに等しい。
もっとも、ここでこいつらが全滅しても、
この先の第二、第三の地点で別の手で仕留めればいいし、
補充も、
再びこの番兵を利用するのも容易いと考えているのだろう。
だが、それも……
「私が相手で無ければよかったのにね……」
静かに笑う。
そう、相手が私でなければ実にいい手だったと思う。
だが問題は相手が私だという事。
私には死霊は意味をなさない。
ただ一言私は命令する。
「蹂躙なさい、
　そして集いなさい。」
その一言で兵士達は蹂躙を始める。
己が味方に向かって。
蹂躙され、砕けていく骨の兵士達は起き上がらず、
その身に宿した死霊は私へとつのっていく。
何をどうしたのかなど、
誰にも分からないだろう。
私はただ悠然と無人の野を行くが如く、
砕け散った骨の欠片の上を歩いて進んでいく。
その後、一夜をあかす事になるが、
死霊にまとわりつかれながら一夜過ごすなど日常茶飯事。
いつもの日常の一幕に等しい。
何の苦労も感慨も無く、
私は第一の関門を突破する。
物語にすらなりはしないほどに滑稽に簡単に。
「勇者は死霊の森へと旅立ち、
　遅い来る死霊達を完全に取り込みました。
　……
　駄目ね。
　どうにも正義っぽい側の人間のする事じゃないわ。」
特にこれといった感慨もなく後にする。
そして、次の場所に目をめぐらせて再び嘆息。
序なので魔女へ至る道を改めてみてみると、
「面白そうなのは三番目、最後くらいかしら。」
書かれていた難所は三つ。
一つ目は先ほどの死霊の森。
二つ目は蛇の渓谷。
そして最後が魔獣の荒野。
「流石にどんな魔獣が現れるのかと思うとどきどきするわね。
　可愛い子がいたらいいのだけど、
　まぁ、私の世界の魔獣と
　こちらの世界の魔獣の違いとかが見れるだけでも楽しいわよね。」
そうして、第二の難所といわれる蛇の渓谷と呼ばれる場所へ
何の警戒も感慨もなくたどり着く。
だが、その場所の光景を目にして思わず……
「へぇ……」
そんな声が私の口からもれ出た。
そこに広がっていたのは、
とても風光明媚な光景だった。
咲き乱れる花、
流れる川。
いずれをとっても美しい。
――その花が毒花ではなく、
毒を持つ生物達がうようよといる事がなければ、
観光にも適しているだろう。
毒があるが故、
人の手が入らず、
保たれてきた天然の美しさ。
皮肉な話ではあるけれど、
お陰で思ったよりも退屈しなさそうだね
とゆったりと光景を楽しむ事にした。
毒草の瘴気にあてられ、
毒虫の毒に犯され、
蛇の毒に殺されながら歩いていく。
しんどいといえばしんどいし、
辛くないかといわれれば、
辛くはあるだろう。
痛みも、
毒による症状も全くないわけではないのだし。
けれども、
私はどんな毒に犯されようが死なず、
毒を抜く手段も持ち合わせている。
だから正直ピクニック気分で前へと進む。
「毒が効く相手なら確かにここは厳し過ぎる環境なのだけど、
　毒が効かない相手にとっては、
　ここは難所というより完全な観光場所なのよねぇ。
　……
　まぁ、しんどいから長居したくはないけど、
　それくらいかしら。
　光景だけは本当にいいから、
　長居したくはあるのだけど……
　防護策用意する必要があるわね。」
のんびりとゆっくりとそんな事を言いながら。
しかし、
難所としては本当につまらない。
かくして私はあっさりと抜けたわけだけど……
「観光気分で普通に歩いて抜けました……
　なんて本当に話にならないわね。
　――苦労しないにこしたことはないけど、
　緊張感にも、
　面白みにもかけるわよねぇ。
　……話の種には全くとまではいかないけど、
　あんまりいえないのはどうしょうも無いかしら。」
そう呟いて渓谷の先の魔獣の荒野へと足を踏み入れる。
何も無い広い荒野の奥に塔が見える。
どうやら、
塔が魔女の居城らしい。
目的地かみえているから真っ直ぐ進めばいいのだが、
荒野には無数の魔獣がひしめいていた。
「……餌とかどうしてるのかしらね。
　お互いがお互いを喰らい、
　生き残った者だけが生き延びていく。
　数が減れば魔女が召還するのかしら？
　弱肉強食なのかしら。
　それにしても、
　こちらの世界で魔獣といわれてる存在と、
　同質、似通った魔獣が多いのね。
　もっと想像もつかないような魔獣とか見てみたかったのだけど、
　流石に無理だった、か。
　仕方ないわね。
　まぁ、最初からそこまで期待していたわけでもないけども。」
静かに襲いかかる魔獣をいなし、
死んでは蘇りを繰り返しながら沈みかけた日を見ながら夜を待つ。
「面倒だから殲滅しましょう。
　好みの可愛い魔獣も期待できなさそうだし、ね。
　強面の魔獣も嫌いじゃないけど、
　つれて歩くと余計面倒になりそうだし。
　一掃させてもらいましょう。
　……そろそろ日が沈むのだし。」
刻々と時は過ぎて行く。
そして、やがて日は沈み、
夜が訪れる。
夜の訪れと共に、
死霊達は活発になる。
私は静かに――
「それじゃあ、ゆっくりと眠らせてもらうとしようかしら？
　快適な眠りとはいかないけれど、
　慣れているしいつもの事。
　少しばかりいつもより長いだけの話。
　対価は貴方達の命だけど、
　私をいつもより長く苦しめられるのだから、
　等価交換とでもしておいて。
　一方的な蹂躙を始めましょう？」
瞳を閉じて制御を手放した。
とたんに荒れ狂う死霊達は、
私を中心に魔獣達をも飲み込んで行く。
飲み込まれた魔獣達は、
荒れ狂い、
周囲の全てを薙ぎ払いながら狂死してゆく。
当然の如く中心にいる私は殺され続ける。
何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も
殺し、殺され、
どれほど殺し殺されたのだろう。
狂乱は夜が明けるその時まで続いて行く。
そして、やがて夜は明けて、
私が目覚める頃には、
そこにあったのは血に染まった荒野と、
無数の魔獣の死体。
立ち上がっているのはぼろぼろになった私だけ。
当然の如く、
着ていた服がぼろきれになっていた為、
苦笑いを浮かべつつ、
適当な場所で着替えを行う。
どうせ誰もみていないのだし問題はないだろう。
しかし、それにしても……
「……少しやりすぎたかしらね？
　一番手っ取り早い方法ではあったのだけど。
　まぁ、騒がしくて感づかれたかもしれないけど、
　別にいいわ。
　どうせあんな状況だったのだし、
　いつもより騒がしい程度でしょ。
　問題は無いわけではないけれど――」
本当にやりすぎてしまったかもしれない。
選り好みできる状況ではなかったとはいえ、
本当に選り好みできなかったかといわれば否な訳だし。
「せめて冥福くらいは祈りましょうか。
　まぁ、自己満足に過ぎないわけだけど。
　……
　ええ。
　安らかに眠りなさい。
　……それが叶わぬ事をしっていて悪いとはいえ、
　其れくらいしかいえないのよね。」
死体をかいくぐり先へと進む。
踏まないように気をつけながら。
……
荒野一面にある死体は、
今はまだただの凄惨な光景に過ぎない。
しかし、その死体は
やがて土へと帰り、
血を育むだろう。
それがせめてもの救いであるかのように。
また、その頃に来てみたいとも思ったが、
残念ながらそれは叶わないだろう。
私がまた再びこの世界にこれるか分からない上に、
来たいと願うとも限らないのだから。
多少残念ねとも思わないでもないが、
別に来た所で懐かしむ光景も、
この死の荒野なのだから、
感慨はあっても、
それ以上に気分が悪くなる可能性も高い。
ならば、
こない方がいいだろう。
ここに眠る命とっても、
私にとっても、
そちらの方が救いだろうから。
「さて、気を取り直しましょう。
　これで、難所は抜けて、
　後は魔女の塔を上るだけ、ね。
　さっさと終わらせて帰りましょ。
　お風呂も入りたいし。
　……あら、そういえばお風呂はあるのかしら？
……
　王宮にならあるわよね。
　あると信じたいわ。」
――後ろをかえりみず、前へ進む――

ズボンのポケットにしまいました。四次元ポケットらしいです。

和葛姫が現れて朔位は平気なのかと、大丈夫なのかと、口には出さんがそう訊ねたいらしい。

感謝の意を述べつつも、ただただ苦笑いを浮かべている。

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カカカと笑ってみせた。