修務のスケジュール帳
朝　今日の探索以降、新たに見つけた地下牢へ行くことになるだろう
昼　異常なし。食後、見回りをする


　本日も記録を残した後、落ち着いた食事を取る。

　やはり元の世界の戻るためにも、城内に入り、有力な情報を手に入れたい。
　あとはアイドル二人の肌の事もある。常備していた日焼け止めはつけさせていたが、日差しの強い荒れ果てた大地を歩かせるのはアイドルとして良くない。

　どちらのエンブリオも表情はないが、声は優しく思いやりに満ちていた。

　食事を終え、修務が立ちあがると、二人も同じように腰を上げた。

　自分たちの拠点周りを警戒しながら歩く。本当に荒れ果てた大地だ。何日か滞在したが、過酷な環境なため、すぐに疲れてしまう。
　今はアイドルたちがいない。修務は遠慮なくスーツを脱いで、ネクタイを緩めた。汗だくだ。ハンカチで汗を拭う。臭くはないだろうか。
　苦笑交じりの声が後ろからかかった。

　
　振り返って、同じように苦笑する。
　でもやはり彼女たちの前でだらしがない姿を晒すのは気が引けたのだ。
　彼女たちは常に誰の目があっても平気なようにきちっとアイドルをしているからだ。その横を歩く身分として、だらしがない格好は出来なかった。日本にいたときからだ。

　内緒。と付け加え、修務は人差し指を口元に持っていった。
　――と、歩きながら後ろを向いてそんなことをしていた為……

　修務は自身の膝の高さくらいまである岩に気付かず、足を取られた。バランスも取れない。

　幸い、岩に頭を打ち付ける寸前で、カーンが抱きとめることが出来た。もう少しでぶつかるところだった岩を見て、修務の心臓が激しく鼓動を打った。打ち所が悪ければ――。
　カーンの腕で庇われたまま、修務は固まっていた。

　声を掛けられて、修務は我に返った。大の男が前方不注意で盛大に転びかけて、エンブリオに抱きとめられて、声をかけられるまで呆然としていた……何と間抜けな姿だろう。

　すぐに身を起こそうとした修務をカーンは制止し、抑えつけた。

　腹に響くようなバリトンボイスが耳元で囁かれる。良い声だな。修務はぼんやりそんなことを思った。

　言われれば、いつもよりも少し目が回っているかもしれない。
　ふっと笑い声が上からかかった。

　腕を引き、カーンがゆっくりと修務を起こした。なすがまま、修務はそれに従った。自分で思っていた以上に目が回っていたらしい。カーンに引かれてようやく立ち上がり、修務は軽くこめかみを押さえた。

　くつくつと笑って、カーンは修務の腕を掴んでいる手を離した。そして、そのまま髪を撫でた。あまりの自然な動作に修務はワンテンポ置いてから、子供のような扱いをされたことに気付き、頬を染めた。

　カーンの声が茶化すような声色ではなかったので、修務は恥ずかしさを感じながらもすんなりそれに従った。確かに自分が倒れてはいけないのだから。
　前の歩くカーンの背中を見る。

　男として情けないが、そんなことを考えながら修務は彼の後をついていった。

　拠点に戻る修務とカーンをかなりの遠方でストーキングして様子を窺っていたエンジェルは、荒れ果てた大地でのた打ち回った。

　優しげな顔の美人が一人地面に転がって駄々をこねる姿は異様なものだった。
　エンジェルは一人で気が済むまで駄々っ子のまねごとをし――

　地面で大の字になって空を眺めたのだった。