■ 絹の声

「あいつら、ちっとも懲りてねえみてえですね」
と、いきなりぷりぷりしているのはえんぶりおのハチベ。
「ま、もう一歩で取り逃がしちまったからな、恨んでるんだろう」
と、マニー親分も頷く。

親分たち一行がいるのはお城の外の森の中。
一昨日、ハチベが悪戯者のふぇありーと間違えられた辺りだ。
その時は本物のふぇありーたち四人組を見つけて懲らしめたのだが、
そいつらは素捷く隙を見て逃げ出してしまったのだ。

そのふぇありーたちが、また悪戯を始めたらしい。
今度こそふん縛ってやろうとやって来た親分たちだったのだが。


くすくす、と、人を虚仮にしたような笑い声が木の間から聞こえる。
ここは森の奥深く、ふぇありーたちが縄張りにしている一帯だ。
連中は縄張りに入って来た一揆参加者たちに悪戯を仕掛けていたのだが、
一度痛い目を見せられた親分たちの前にも再び現れた。

いや、現れたというのは少し違うか。
連中は声はすれども姿は見せない。
どうやら、木の上の方で枝の合間から様子を窺っているらしい。

「くすくす、矢っ張り来たね」と巫山戯た声。
「この前は手前らを甘く見たからね」と続ける。
「今度は油断しないよ」と三人目も言う。
「ここならお得意の鞭も届かないだろう」と四人全員居るようだ。

そうして、がさがさという音で連中は散らばった模様。
またくすくす声がした思うと、いよいよ連中の悪戯が始まった。
火の玉、氷の玉、旋風、石礫と、各々が得物を投げつけてくる。
まだ遊んでいるようで悪戯程度だが、死角からの攻撃は避けるのに一苦労だ。
姿も見せない連中を叩くなんて真似はできそうにない。


だが、我らのマニー親分はやはり冷静だ。
連中の攻撃を叩き落しながら、後ろを振り返って何か合図をする。
すると出て来たのは、新しく手下に加わったえんぶりお。
泣き虫でいつも目を赤くしている、兎のオキヌだ。

「待たせたな、お前さんの出番だぜ」と親分。
「ああ、親分さん、そんな、私なんて」とオキヌは弱々しい。
「ま、そう言わずに存分に泣いてくんな」と親分は意外なことを言う。
「ああ、そんなに言われたら困ってしまいます」と言いながらオキヌはもう涙目だ。

何が始まるかと思ったがこの有様、悪戯者たちは安心してまた仕掛けてくる。
だが親分はにやりとして「お前たち、耳栓をしておきな」と乾分たちに言った。


その少し後、本当に泣き出したオキヌの甲高い声と言ったら。
まるで百千のびいどろを擦り合わせたような凄まじいものだった。
特に小さい生き物にとってはまさに凶器ってもんだ。
その声を聴いた悪戯者たちが堪らず地面に落ちて来たのは親分の作戦通り。

「さて、まだ懲りねえようなら今度は俺が相手だぜ」と親分は凄む。
その横で、同じふぇありーのハチベもぶっ倒れていたのは、まあ仕方ねえこった。