「それじゃあ早速占ってみるか」

そう言うと彼は手をぷらぷらと振った。

「まずはお嬢ちゃん、名前は？」

「雛神このみです」

「雛神――このみ、ね」

彼は少し視線を空に向けた後、そのまま兄さんの方に移した。

「確認したいんだが兄ちゃんもお嬢ちゃんと同じ悩みを抱えてるのか？」

「ああ、うん。そうかな」

「じゃあ兄ちゃんの名前も教えてもらえるか？結果をより確実に近づけれるからな」

「雛神聖だ」

このみと聖ね、と彼は私達の名前を真剣なまなざしのまま呟く。
私と兄さんは思わず顔を見合わせた。

「ああ、今からやるタロット占いはもちろん『普通』じゃない。相手に相応しい札が出てくるんだ。カードを引くのは俺じゃなきゃダメだから、占うヤツの名前は先に聞いておくんだよ。名は体を表す、だっけか？どっかの言葉だそうだが、これが案外馬鹿に出来ない。名前ってのは力があるからな」

「名前だけで良いんですか？」

そう問うと彼は頷く。

「それだけで良い、というか必要以上の情報は逆に先入観になるからな。ない方が良い」

彼は右手を私達に向かって差し出す。
思わずその手に視線を向ける。

「このみ、聖。俺の手の上に自分の手を重ねろ。右左どっちでもかまわない」

私達は頷くと彼の手の上に手を置く。私が真ん中、兄さんが一番上だ。

いよいよ始まるのかと思うと少し緊張する。やはりどんな結果が出るか不安はあるし、先ほどとは変わった室内の空気が過度に気を引き締めようとしてくる。

私の様子を見て占い師は小さく喉を鳴らして笑った。

「そんなに緊張すんなって。ここまで来たならもう『手遅れ』だ。パスは得た、準備はもう終わってる。結果は嫌でも開示されるさ」

彼の言葉に黙って頷く。もう目を逸らす選択肢はない。目の前に曝け出されるそれを見て進むしかないんだから。

その時、私に重ねられている手に少し力が込められた。痛くないほどに、だけど強い意志が込められた手の主を私は見た。

兄さんは何も言わないが。一度頷くと笑った。
普段とは違う、頼もしいと思えるその笑みに何かが溶けるような感覚がし、私も笑みを返し頷いた。

「じゃあ、引くぞ」

私達の決意を確認し終えたのか。たまたまなのかは解からないが占い師がそう宣言し、一番上のカードを左手で引き、テーブルの真ん中へ置いた。

そして、もう一枚引き、右側へ。
さらに引き左側。
四度目のカードを最初のカードより前へ置き、五枚目のカードを対照になるように置いた。

十字の形に配された裏返しのカード。

「お疲れ。もう手をどけても良いぞ」

占い師の言葉に私達は手をどける。
五枚のカードを視線を向けた。ここに私達の未来が並んでいる。

「もったいぶっても仕方ねぇし、早速めくっていくぞ」

「お願いします」

私の言葉を合図に彼はまず一番手前――最後に配されたカードを捲った。

そこには本を持った男性、と思われる人物が描かれている。表現が曖昧になったのはその人物が影のように描かれていて性別がわからない。髪形で男性と判断しただけだった。

そして次は四枚目のカードがめくられる。それは建物の絵だった。緑の背景に白い館。館の右側に時計塔のようなものがある。もちろん見たこともない建物だ。

左側に置かれたカードには対峙する二人の影絵が描かれていた。一人は羽のようなものが背中に生えている。もう一人は普通の人のようだ。

右側のカードは今までのものと違い嫌にカラフルだった。青、赤、黄、緑、鮮やかな色彩に、家や犬、お菓子や本と言ったものが周囲に描かれ、その真ん中で少年が笑っている。

「それじゃ、最後な」

そして、一番最初に引かれたカードが私達の前にその絵を表す。

少しは予想していた。ここまでに彼女を連想するものがないのはおかしい。
きっと彼女は何らかの形でこの事件に関わっているはずだ。
そうじゃないとおかしい、と直感していた。

だから、そこに描かれたものはある意味待っていたものでもあり、同時に予想外のものだった。

最後のカードに描かれていた絵は――、


銀髪の女性が両手、両足を鎖で繋がれて椅子に座っている、といったものだった。