長い時間をかけて社長さんが口にした言葉を、アムルはじっとその目を見つめて聞きました。
そうしてから、しばらく足元に目をやり、くるりと踵を返すと、話の続きを口にしました。

ずっと昔に、大きく、強く、文明を持った蜘蛛の種族がいたんです。
彼らは独自の文明と信仰をもって栄え、地下に大きな生活圏を築いていました。

ある日、地上からやってきた人間たちが蜘蛛たちの国を襲いました。
地上を支配する人間たちは、地下もまた自分たちが支配すべきだと考えたんです。


蜘蛛たちの神は激怒しました。
激怒して、人間たちを殺すために奇跡を起こしました。

人間を殺すために巨大で凶悪な蜘蛛が次々と生まれて、彼らは攻めこんできた人間を殺します。

もちろん、殺すために産まれた蜘蛛たちはそれだけで終わらせません。
地上へと出た蜘蛛たちは、地上からも人間を追い立てはじめました。


窮地に陥った人間たちは、自分たちの神に助けを求めて祈りました。
なぜなら自分たちが地上の支配者だと囁いたのは、自分たちの神だったからです。

人間の神もまた奇跡を起こしました。

忌まわしき狩り人たちが空に解き放たれて地上に這い出た蜘蛛たちを殺し尽くしました。
空が裂け、幾千もの熱と光が降り注ぎ、地下深くに逃げた蜘蛛たちすら焼き尽くしました。


人間も蜘蛛も滅んで、その世界にはなにも残りませんでした。


力を失った蜘蛛の神は、憎悪を募らせながら、ふたたび自分を崇める民を待つことになりました。

でも、人間の神は、待つ必要はありませんでした。
はじめからそれは人間の神なんかじゃなかったからです。

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ヒトモドキ、という単語を口にするとき、嫌悪感が表情に浮かびます。
自分でそれを自覚したのか、一度視線をそらして。

硬い声で、そう口にして。
自分の中で強くなっていた緊張を解すように、一度、ゆるやかに息を吐きます。

アムルはそう言って、この話をはじめてから、やっと表情をゆるめました。


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雑踏に視線を向けて、とても不思議なものを見るような目でみている。
どうしてみな、その腹の中に矛盾した心を詰め込んで、平然と歩こことができるのか。

それが具体的に、どういう理屈によるものか。
それを口にすることができないのは、アムルがそれをいまだ理解できていないからです。


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視線をあげて、じっと社長さんを見ます。
フードの下から覗く瞳も含めて、四対、八つの瞳がじっと。

淡々と口にする言葉には嘘はありません。本当にそうあるべきだと考えている表情。
ですが、その目に探しているものを見つけた喜びを浮かべ。

ぺこりと頭を下げて、ありがとうございます、と。
そう言ってから、アムルは今度こそ、雑踏の中へと立ち去っていきます。