いきなり突き飛ばされて、水路がはびこりまくるあぶないところを転がるハメになって。
　途中にいたふしぎな２人組に因縁つけられたからノータイムで焼き飛ばして。

　……そういえば、アイツらエンブリオの力を使ってる感じじゃ、なかったな……。
　どっかのへいしみたいな、まっしろできちんきちんした服着てたけど。

　なんだったんだろうなアイツら。
　異世界の連中だってことだけは、たしかなのか。

　目的がケンカしてないなら、別に何をどうしてくれようがイイんだけどさ。
　ケンカしてないなら。


　とにかく！
　酷い目に合わせてくれたことをひとこと物申すつもりで駆け回ったのはいいんだけれど、け〜っきょくまいごになっただけ。
　突き飛ばしてくれた張本人・サヤを見つけられはしなかった。
　前に来たでっかい廊下に迷いこんでちょろちょろしてたところをデュヘイルさんに見つけてもらって送ってもらったり、その案内のおかげで何とかクンレンジョウまで戻れても、そこにマシェと千巌はいたけれど、サヤはそこにはいなかった。

　……いや、うん。
　れ〜せ〜になると、ボクもちょっとどうかと思った、このボクのまいごっぷりは。
　水汲みの時でもさんざ、ひとり遭難したら一巻の終わりだって口酸っぱく言われてたはずなのに。

　なのに異形できけんがはびこる王城でひとりまいごって、ちょっと……。

　お迎え？　っぽくデュヘイルさんがボクを見つけてくれて、つれてってくれたからいいんだけど、さ……。
　事なきは得たんだけど、さ……。

　ちょっと、さすがに、アタマに血が上ったらまわりがまったく見えなくなるのは、どーにかしたほうが……いいよなあ……？
　ジカクはある程度はあるんだけど、なかなか、なかなか……うぐう。

　いのちにも関わるしね、ちょっと意識しよう。


　ともあれ。
　どうも千巌とマシェの２人もサヤを探している……ってほどじゃないんだけれど、見失っていたっぽい。

「ソウ、最後にサヤとしゃべってたのはここなんだよな？」
　クンレンジョウの地面を槍の柄でコツコツ叩く千巌のコトバに、こくり首を縦に振る。
　正確にはここじゃなくって、ここをもうちょっと降りた……“女神の園”っていう場所だけどさ。
　あの水がいっぱいあるひたすらボクにとってはあぶないってわかってるアソコにごろごろっ……。

　け〜っきょく、仮面も水路の中にしっかりおちてたしさ？
　それ拾おうとしたらブリキの手指はやっぱり動かなくなっちゃってタイヘンなことになって、エンブリオ達に取るのを頼んだけどそのエンブリオだってからだ小さいからあっちころころこっちにちゃぽんって大騒ぎになってっ……？！

　その間に仮面の下の顔、よその連中に見られてなければよいんだけど……。
　思い出すだけでムカってくるなあ……ぐぬぬぬぬ……サヤのやつっ……！

「あ、あのっ……サヤちゃんは、あのねっ……」
「ん？　マシェ、サヤのこと何か知ってるのか？」
「あ、いやっ！？　噂だから、あのねっ……でももう、あんまりかんけいはたぶん……」
　ごにょごにょと、マシェが要領を得ないコトバをもごもごいっている。

　言いたいことがあるならはっきり言ってほしい。
　むかむか。

「ひぅ！？　……ソウちゃんが、こあい……」
　察したのかマシェが引きつり声。
　小さく鳴けば泣きべそをかいて、びくびくと見えるくらいにふるえて怯えてちいさくなって、千巌の陰に隠れてしまう。
　よしよし、と、千巌がマシェの頭をなでている。

「なんかちょっとソウ、ピリピリしてるな。サヤとなんかあったのか？
　もしなんかあったにしても、マシェに八つ当たりは良くないぞ？」

　ぷっつん。

　ぁー、そーですか。ぁー、そうですかそうですか。ボクがわるいんですか。
　それがマシェのいつものパターンだってわかってるけど、千巌のコトバがあってるのもわかってるけど。
　それをきちんと受け入れる余裕は、いまのボクにはない。
　ムカつきを押えないままその場でくるっと踵を返すと、黙ってすたすたと歩きだす。

「……って、ぉーぃソウ、サヤ探しに行くのかー？」
　背中越しに千巌の大声。
　すごく通る声がクンレンジョウに響き渡る。

　チガイマス、アタマにキたからアナタタチから離れたいだけです。
　……探しにもいくけど。サヤがいそうなところに。
　確かサヤ、ボクと千巌が会った“おうさま”の話をしてたとき、ずいぶん気になるよ〜な感じのようすだったよな……。

　とりあえずサヤに会ったらそっこー顔面ぶん殴る。体重乗せて。全力で。
　ひとにいわせるときれいな顔らしいけどそんなのしらない、全身全霊でぶっとばす。

「ひとりでだいじょうぶかー？　ま、ソウならだいじょうぶだなー。
　とりあえず千巌はココ訓練場で訓練しながら待っててみるからな！　明日には一度戻ってこいよー！！」
　やだメンド……
「明日、大声でみんなのこと呼ぶからなー！　ぜったいに迷子になるんじゃないぞー！！　気をつけろよー！！」
　うぐっ……い、今のコトバは、かなりいたかっ……。

　立ち止まって振り返ると、そこには槍をぶんぶん”いってこいよー”という感じで大きくふるう千巌。
　ボクがイライラしてたのなんて関係ないよ、がんばれよ、といわんばかりに満面の笑みで”いってらっしゃい”をしてくれている。
　その大きな声が、裏表ないコトバが、まとうふんいきが、空気が様子が、からっぽのボクに突き刺さる。


　わかりました。
　ちゃんと、あしたは、帰ってきます。

　……へぅ。

　そして、おうさまの間。
　間、っていう程、ちゃんとした部屋とか場所じゃない。要は地下牢の奥の奥。
　ここに来るとふしぎなことに、下がるランタンも手にもつ明かりも一斉に消える。
　ぼやりと、腐敗と死のにおい。それが影と共に浮かび上がる。
　それが、このおうさま。助けの声と死と不浄をまとってひきつれて現れる、骨のおうさま。

　ここに来るまでには、サヤは見当たらなかった。
　なので、その続きは――このおうさまに寄り添っている不浄をきちんと、浄化してから。

シャリン――、シャリン――
　どこからともなく音がする。

　　　シャリン――、シャリン――
　　　　それは、だんだん近づいてきている、そんな気がする。