[？？？]


彼の家に入ってぼくが初めに案内されたのは少し広めの部屋だった。
彼はこの部屋を『工房』と呼び、これからぼくもこの部屋でお手伝いをすることになると言っていた。

ぼくは部屋の中を見回す。

火の香りが残るかまど、たくさんの傷跡が刻まれた金敷、使い古されているけど芯のしっかりした金槌。

この部屋の中には色々な物が詰まっており、それぞれが生き生きとしているように見えた。

余りに物珍しそうに見回してたからなのか、彼は笑いながらぼくに言う。


「ははは、それほど珍しいものではないだろう？」

「ううん、そんなことない。いろいろあってすごいよ」

「ま、お前さんには色々手伝ってもらう事になるがな。結構疲れるだろうから覚悟しときな」

「う、うん……」

「ははは、冗談だよ。確かに体力は必要だがそこは少しずつ伸ばせばいい」


戸惑うぼくの頭を軽く撫でながらからかう。


「そう言えばお前さん名前は……思い出せない……か？」

「……うん」

「そうか……」

「………」

「………」

「そうだな……それなら思い出すまでの間の呼び名を考えないとな」


彼は少し考えた後、はっと思いついたかのように言った。


「……ラージェ、というのはどうだ？」

「ラージェ……？」

「ああ。まあ思いつきだがな」

「ラージェ、ラージェ……」


ぼくは大切なものを貰ったかのように大事に復唱する。


「うん、それでいいよ」

「そうか。それなら今日からよろしくな。ラージェ」

「うん！」



[No.1:Lage]




・〜・〜・〜・〜

目を覚ました僕は窓をみる。外はまだ薄暗く、起きるにはまだ早い時間だ。
しかし寝直す前に僕は先ほどまで見ていた夢のことを思い返す。

夢の中の『ぼく』、彼は先代の中でも一番初めの人。『一人目』ラージェだ。

彼は拾われた鍛冶屋の元で技術を学んだ。
そしてその才に秀でていた事もあり、どんどん技量を上げていった。

……でも、それを生かす間もなく彼は命を奪われた。
あの世界は身を守る術を持たずに何かを選るには厳しい世界だったのだ。

記録によると、その後数代は世界の厳しさに耐えられずに命を落としたらしい。


……思考が本質から外れていた。
ここで気にすべき事は一つある。


それは『どうして彼の記憶を夢として見ることができたのか』という事だ。


僕の存在の根幹を司っている転生システムは転生時に生前の記憶を消去する。
これは転生後の次代が先代の記憶の影響を受けないようにするためだ。
だから僕も先代達のことはどのような人生を送り、何を創っていったかという知識が全て……だと思っていた。

あの夢が本当に先代達の記憶であるなら記憶の消去は実のところ消去ではなくどこかに隠しているだけとなる。

もちろんただの夢という落ちもあり得る。
ただ僕の直感はそれを否定している。なぜかは分からない。
少し調べる価値はありそうだ。




・〜・〜・〜・〜

三体のふわもこ達が目を輝かせながら海に向かって並んで立っている。

一方僕達はフェリオ達の様子を見ながらパラソルの下でのんびりしている。
こんな夏だからこそアイスがおいしい。

見たところやや人出が少なくなっているように見える。
一揆もそれなりに佳境に差し掛かっているしそれどころではない人も多いかもしれない。
でもそれはそれ。僕達は楽しく過ごして英気を養うのだ。

僕はビーチボールを手にフェリオ達の所に向かった。
今日は一日遊ぶぞ〜！