森林の道なき道を進む。
飽きるほど見てきた風景に目を逸らしたくなったあなたは、ふと視線を下ろした。
…木の幹のそばに古びた本が落ちている。
手に取りますか？
→はい
　　　いいえ

魔法の反応は無い。危ないものでは無さそうだ。
臙脂色の装幀に金色の糸で装飾が施されているが、古びて色は褪せている。
折れた本の角や手垢らしき汚れから、幾度となく読み込まれた跡が見える。

分厚い表紙をめくり、最初の頁を読んでみた。

むかしむかし、世界は争いが続いていました。
争いの中、とある国の王様の元に、一人の男の子が生まれました。
王様の傍で使えている魔法使いは言いました。
「彼が戦乱の世を終わらせてくれるだろう」と。
魔法使いに頼まれ、王様はその子を魔法使いに預けました。

男の子が15歳になった時、周りで聖剣の噂が流れました。
なんでも、森の奥の大きな岩の隙間に剣が刺さっていて、誰一人としてそれを抜くことが出来ないらしいのです。
彼は自分なら剣を抜くことが出来ると言い出し、その場所へと向かいました。
誰もが無理だろうと思いながら、様子を見ていました。
彼は剣の柄を持つと、いともたやすく剣を抜き、天に掲げました。

聖剣を抜いてまもなく、父王が亡くなり、彼は王位に就きました。
聖剣を持つ王は、とうとう魔法使いの予言通り、世界を統一し、戦乱の世を終わらせたのです。

ブロンドの髪をポニーテールにした少女が怒りに満ちた表情で駆け寄ってくる。
華奢な身体には不釣り合いな大きく赤いマントと、首元の黄金の飾りが印象的だ。

少女は本をセシリアの手から強引に奪っていき、踵を返して再び目的の方向へ走りだした。

言葉を濁す。

一拍置いて、貴方の方を向く。

木陰の気配を的確に察知すると、くるりと向き直る。

睨むように木陰を見ている……