――またも、知ったことのある気がする気配に気が付いて、追いかけているうちのことだ。

なんとなく、理解が追い付いてきている。
接敵するのも、身体に攻撃が迫っている事を感じるのは多分‥
多分、これまでの毎日の延長線上にあるのだろう。

‥向けられる感情に。
敵意に、身体が反応しているんだ。

身体が敵意を映して動いているんだ。
だから、見えなくても。
聞こえなくても、ぼくらの爪と牙は襲い来る敵に届く。

漠然とは理解していた。
けれど予想よりもずっと、ぼくらに降りていた影響は大きかったらしい。

（ぼくでもない。姉さんでもない）

此処に戻ってきてしまうのも、もしかするとこの延長なのかもしれないな、とふと思う。
寄せてきた疲弊を溶かすようにまた泉に身体を浸す。
水だけではないのだろう。
この場所は――別れた場所だ。
"トモダチ"が。
フョードルが。
ぼくらの為を思って、ぼくらの身体を浸した水場だ。

生命力を嗄らした肉体がそもそも繰れている、ということ自体が不可解なのだ。
多分ぼくらの知りえない何かが咬んでいたとしても。
ぼくらは死に損ねたのではなくて―

最後に見た光景。
光を跳ねた琥珀も、綺麗に揺れる飾り紐。
はっきりと頭に残っている。

ぼくらは救った積もりで救われたのだ。
そして――

（――第三の、竜か）

微かに、囁くような声。けれど、酷く掠れたそれはとても言葉足りえず、くぐもった響きだけを残して消えた。

首を巡らせる。何度も、何度も、何度も。
それでも探し物を見つけられない竜は、やがて身を翻して駆け去っていった。
探し物を捜しに、探し物から遠ざかっていった。