『行き当たりばったりな冒険　〜ショウの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.18.16:27、とある廃墟にて――


　ミライの動きが止まった。ミライの思考をチェックしていた
ぽちは思考のループを確認する。不味い状況である。まだ
任務の遂行中である。敵に発見される前にミライを
再起動させなければならない。
「エネルギー食っちゃうけど、仕方ない。れいんぼーうぉーる」
　ぽちは両翼から光の粒子を散布する。光は虹色の膜となって
半球状に降り注ぎ、ミライとぽちを覆った。
「ふえっ！？」
　虹色の幕の表面に紺色の霧が吹き付けられる。敵だ。
蟷螂のような黒い生物が、口から霧を吹きかけていた。
「見つかってるぅ！？」
　青い霧はじわじわと虹色の膜に侵食していく。
「あわわわわっ！　ツルギ！　目を覚ましてよ！
ボク等は死なないけど、壊れるのは嫌〜！　予算の都合が！
修理にかかるコストが怖い！　皆に怒られる〜！」
　翼で光を放出しつつ、ミライの頭部をべちべちと叩く。
ミライが反応する様子はない。
「ツルギってば！　わ、わきゃ〜っ！？」
　虹色の膜が紺に染まっていく。その瞬間、ぽちは
別の生体反応に気付いた。それと同時に銃声が二度響いた。
敵は巨体を揺らしながら、地面に崩れ落ちた。
「こ、壊れるかと思った……」
　ぽちは光の放出をやめた。
　間に合ったのだ。ぽちの通信はマスターに届いていた。
「ギリギリだったな」
　青色の戦闘用のスーツとヘルメットに身を包んだ人物が、
廃墟の影から現れた。彼等のマスター、ショウだった。


　ミライが思考停止して、数分が経過した。ショウはミライの
後頭部の下辺りに触れた。首に触れる。
「マスター、御免なさい。ちょっと意地悪なことを言ったら、
ミライの思考が永久ループに入っちゃったの」
　ミライは固まったまま動く様子はない。ショウは慣れた手つきで
ミライの活動を停止させた。直ぐに再起動の準備をする。
「……気にするな。停止したこいつが悪い。それよりも周囲の
警戒を怠らないでくれ。こいつの再起動をしてみる」
「りょ〜か〜い」
　ミライに繋いだ端末を弄りながら、ショウはぽちに聞いた。
「……で、今回の思考のループの原因は何だ？
重大な欠陥でも見つかったか？」
「恋愛の話。自覚がないみたいだけど、ミライは恋をしてるのかも。
相手はマスターも知っている女性だよ」
「恋の悩みかよ。この忙しい時期にお目出度い奴だな」
　ショウはミライの頭を軽く小突いた。

　　　　　　メタセコイアは見守っていた、愚かな地球と君の最期を。