ずっと、謝らないとって思ってた

――　ねえ、お嬢様。
　　　あの日、馬車が襲われたあの時。
　　　お嬢様のドレスを着て、私がおとりになって。
　　　その時約束しましたね、『返すから』って。
　　　ごめんなさい、お嬢様、私はもう返せそうにありません。


だから、私は謝りながら死んでいった。








二回目には。
また、謝らないといけなくなってしまった。



「ごめんね、皆、もっと話したいって思っていたのに。もう、気をぬくと剣を相手にたたきつけそうだったんだ。あはっ、でも、ここまで耐えられたんだね」


――　ねえ、皆。
　　　この世界に来てみんなのそばにいるだけで笑えてたよ。
　　　上手く話せなくて……人との話し方なんて忘れてて、ずっとそのままだったけど。
　　　ごめんね、皆。


「姫ちゃんたちは、もっと遊びたかったなー。可愛い服とか、教えてもらいたかったかも。私、ドレスとメイド服しかしらなかったから」


――　ねえ、姫ちゃん。
　　　二人の明るさには、とても救われたんだよ。
　　　私みたいな、ニセモノの笑顔じゃなくて、その笑顔が。
　　　暖かくて、嬉しかったんだ。
　　　ごめんね、ずっといえなくて。


「話してくれたみんなもごめんね。もっと、もっともっと話したいこと、色々あったんだけど」

――　ねえ、皆。
　　　皆話してくれて嬉しかったんだ。
　　　私、話す相手が今までいなかったから。
　　　でも、ごめんね。
　　　もう話すこと、できなくなっちゃうや。


「ミルちゃんはーもっと葉月お兄さんのことでからかいたかったなー。シロちゃんからも、元気もうもらえなくなっちゃうかなぁ」

――　ミルちゃん、シロちゃん。
　　　二人とも元気で、笑って。
　　　ミルちゃんはいろんなことを知ってて凄いって思ったし。
　　　シロちゃんは、元々同じ職業だったから、あは、親近感わいちゃったなあ。
　　　ごめんね、二人とも。
　　　迷惑、かけちゃうね。


「葉月お兄さんは……。なんだろうなぁ、うん。お兄さんが出来たみたいで、うれしかったな。優しくて暖かくて」

――　ねえ、葉月お兄さん。
　　　もう、お兄さんも長くはなかったんだよね。
　　　最後の時間を使ってくれてありがとう。
　　　なんだろうなぁ、お兄さんは最初に私が切りかかったときも受け入れてくれたし。
　　　私が『わたし』であることも受け入れてくれて、うれしくて。
　　　でも、戦う姿を見て護らないとって思っちゃって。
　　　ああ、うん、きっと、多分だけどね、お兄さん。
　　　私は貴方のことが、好きなんだ。
　　　あはは、こんなのに好かれてもうれしくないよね、ミルちゃんみたいに可愛くもないし。

　　　ごめんね、本当に、最後まで迷惑をかけちゃって。



「ああ、これで終わりかなぁ」

もう動かせるところがない。
草原の中央で転がっているのは、そういうこと。
ここならば人が来ることがない、ならば我を忘れて斬る事も、ない。

「ああ、最後にあやまらないと」


――　ごめんね、約束を護れなかった。
　　　私とこの子の『名前を削って』呪いを逸らそうとしたんだけども出来なくて。
　　　猶予期間中に救う術を探ろうと思ったけど、ここの世界のエンブリオには解決できそうなものがなくて。
　　　段々と、嫌悪が快楽になっていって。
　　　結局こんなものになれはてた。
　　　でも、それでも。
　　　この子の魂だけは、怪我されないままで返さないと。


「最初の持ち主の、男の人。魂になっても、一途に思い続けた、その心」


――　ごめんね、君にあってもう一度言いたいことがあったのに。

「浄化されて、想い人の下へと還っていって。大丈夫、呪いも辛みも悔恨も、全部私が抱えて逝くから」


自分の腕と足を剣で貫く。
回復が発動するけれど、その前に開いた穴に別の剣を付き立てた。
自身を地面にはりつけにして、血に塗れた格好で見る空は。
私が最初に殺された、あのときのままで。

「あはっ、あはははははははははははははははははっ！」

笑い、笑う。

「誰が、倒しにきてくれるかなぁ？」

そうして、私は目を閉ざした。
その耳に最後、何か言葉が聞こえた気がした。





そして、私の意識は闇へと沈んだ。

長刃を振り、血を拭った。