『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.18.16:15、とある広間にて――


　兄弟機の一人、ディーと名乗る青年は、感情表現が
苦手のようで、実は感情表現が豊からしい。
アニムスによると無愛想を装っているだけだという。
　少なからずグローリア博士に気があるのか？


　覆い茂る有毒植物を高熱の刃で薙ぎ払う。
刃は勢い余って脆い壁にめり込んだ。
「おやぁ〜？　君らしくないね、そんな反応を
見せるなんて。いつもなら、感情なんて要らないとか
言っているのに」
　感情に任せてみた結果である。
　廃墟のビルの壁から刃を引き抜く。ぼろぼろと
破片が崩れ落ち、埃が舞った。
「……要らない。そう思ってるけどな……」
　疑似的感情は客観的に見る感情(機械としての、
判断による決断に同意する感情)と、観察の
対象としての興味からくる複雑な感情に分かれていた。
「漠然としているんだが……闘争心って言うのか？
男として、いや、ロボットとしてかな。アイツに
負けたくない……とは思っている」
「とーそーしんねぇ。相手は誰なの？」
「ディーだよ」
「君、でぃいさんか。彼に勝つつもりなの？
スペック的に絶望じゃないかな？　彼、戦闘に
特化してるんだよ」
　同型機とはいえ、その性能差は大きい。
より人間よりである俺は尚更だった。
同型機の中で最も戦闘に向いていない。
「でぃいさんはグローリア博士の趣味丸出しモデルだし、
性能も良い。勝算はないでしょ」
　ぽちはやれやれと翼を曲げる。
「何でここでグローリア博士が出る？」
「そりゃ、君が恋してるからじゃないか。でぃいさん
以外にも同型の男性機はいるでしょ。それなのに
彼等には目もくれない。恋のライバルとして
認識したからこそ、闘争心が沸いたとしか
考えられないでしょ」
「恋の……ライバル？」
「何だかんだ言ってさ、本当は博士のことが
気になって仕方がないんだ。君、本当は
判ってるんじゃないか？　自分の感情を否定することで、
自分の感情を無理に隠そうとしてる」
「そんなわけないだろ。博士は俺の恩人で……」
　初めての出会いが書庫だった。飲料のボトルを
手渡され、その意味を理解しかねた。
　今もまた思考のループが始まって……
「あれ？　ツルギ？　どうしたの？」
　ぽちの声が遠のき、終わりのない思考が始まった。
ぽちに翼で叩かれていることさえ、どうでもよくなる。
その直後のぽちの叫びさえ……
　今はまだ戦闘の途中だった。