ある日を境に、しばらくアイリは自室の工房に籠る事が多くなった。
どうやらずっと何かを作っているようだ。

切っ掛けは、この世界に来てから通い始めた学園「メルンテーゼ学園」の図書館から、
ある本を借りてきたことにある。

本の題名の一部には「異世界通信」と書かれていた。

さすがにこの世界に来てからもうかなりの時間が経過している。
そろそろ元の世界と連絡だけでも取っておこうと考えたのだろう。

彼女が異世界通信の存在を知ったのは少し前。
偶然、一揆軍の本陣でこの一揆に参戦している人の会話を聞いてしまった事から始まる。

一言で説明すると、「元の世界に残してきた家族と定期的に連絡を取っている」と言う話である。
それを偶然耳にしたアイリは当時は半信半疑ではあったが、
自分にもそれを使う方法はないかと考え、学園の図書館で異世界との通信手段が無いか調べるようになった。

そしてある日、図書館で偶然にも1冊の本を手にする事になる。本の名前は「タワムレガキ」
その本を開いた後、数時間の間本の世界の中を彷徨いメルンテーゼに戻ってきた。

本の世界では色々な体験をしたが、
本の世界で異世界と直接交信している人と出会い異世界通信の存在に確信を得る。

余談だが、本の世界から戻る直前に大盛りのラーメンを何杯か完食したと言う体験談を彼女は残している。
さらに別の世界に飛ばされたと言うのに随分とマイペースである。

なおその日以来、学園の図書館からはタワムレガキの本が誰かに貸し出されたままになっている。
その為彼女が再びタワムレガキの本を開くことはしばらく出来ないと思われる。

本の世界から戻ってからしばらくしたある日、図書館にて一冊の本を発見する。
それが今回借りてきた異世界通信に関する本である。

本によると、元の世界の情報があれば異世界通信を行う手段を自作する事は容易であるらしい。
但し、「通信を行う2つの世界が同じ分割世界の枠組みに所属していること」が条件だそうだ。
違う枠組みに所属している場合、同じ枠組みに所属している場合と比べて条件が格段と厳しくなる、とも書かれている。

勿論、今のアイリには元の世界が「どの枠組みに所属しているか」など分かる訳が無かった。
故にこれは賭けでもあった。

そして今日。

彼女は仲間と別行動を取ってとある募集に乗り、森林へと向かう。
目的は不明だが、何かしらの意図があるのだろう。

そういってクッキーを手渡すように差し出して。

戦争という言葉をきいて顔を曇らせる。