訓練場、で、タフな相手に打ち練習して。
　その間も、風のうわさや妖精のうわさを聞いたりして。

「水辺にいるキエメってなんか、すごいらしいな！　ちょっと千巌、ケイヤクしてみたいぞ！！」
　――と、いうことを叫ぶ千巌が出て。
　妖精のつてで、白い魔女？　みたいなのに、透明な空の道が続くという場所に連れていかれた約２人。

　そう、２人。
　透明な空の道には、千巌とマシェだけが、連れて行かれた。

　その日に全員は道案内は無理ということで、ボクとサヤは、おいてけぼり。


　なんかひからびた草のかたまりが、虫の動くよーな音を立てながら、コロコロ転がってあっちに行く。
　かわいた風が吹いてきて、たまにブリキの身体にぴしぴしと砂つぶてを付けていく。

　かさかさかさ――。
　ぴしぴしぴし――。

「……」
「……」

　そんな中で、置いてけぼりのボクらは立ちぼうけ。
　会話？　ハイ、そんなものありません。

　前もそうだったのだ、け、ど。
　ボクとサヤは基本的に、ほとんどしゃべらない。
　ボクは声をあまり出したくはないし、サヤは基本的に寡黙だ。ほとんどしゃべってるのを見てはいない。

　なので、この２人だけになると、だいったい静かで会話がない。
　違う何かか誰かが切りだすでもしないと、そもそも間自体が持ちはしない。

「……」
「……」

　そっと隣りを見てみれば、サヤが黙ったまま目を閉じて、風につけられた砂ぼこりを静かに払っている。
　少し、いやそうな、そんな顔をしている、気が、する。

　うん、気まずい。
　気まずいので……ごめーん、ユノー、この空気ブレイクの為にサヤに何か話しかけてくれっ。

「えっと――そういえば――“キエメ”って、何だろう――？
　マシェ――あんまりわからない――っていってた、けど――」
「ごめんなさいね、私も分からないわ。
　水辺に出でる、ならば、水にかかわる何かだとは思うけれど……ドイツ語で“鯉”の意味は、あった気はしたけど……」

　おっかなびっくり？　て程じゃないけれど、ユノが話のとっかかり的に話題を振る。
　びみょ〜にサヤは、ユノ相手の時はやわらかく、会話もきちんとかえしてくれる。

「こい――？
　こいって、なんだろう――おねがい、おねがい――？」
「いいえ違うわ。水の中に住む生き物の一つで、お魚の名前ね。
　ユノちゃんは魚は見たこと、なかったかしら？」
「うん、あんまり――。
　ソウ、水はダメだから――水のところのはあんまり――」

　一応、昔の水汲みの時に魚は割と見ましたよー？　川の中泳いでましたよー？
　あんなのかあ……と、ちょっと、頭に思い浮かべる。

「――あ、でも、今日どうしよう――？
　２人――行っちゃったから――サヤとソウ――どこに――？」
「そうね。訓練場でお留守番、でもいいかしら？
　あの白い魔女さんは今日は無理としかいってなかったし、明日は空の道？　に私たちもいけるでしょうし、ね」
「そうする――？」
「でも、ちょっとそれなら、寄り道したくなっちゃうかしらね」
「寄り道――？」
「そう、寄り道」

　そういうと、くすっとサヤがユノに笑いかける。
　そっと優雅にゆっくり手をあげて、指で静かにある方を指し示す。

　そっちのほうをよーく、よ〜〜くみる。
　すると砂の地面のところに、小さく小さく、隠れるように階段の入り口があった。



　下り階段。
　最初はちょっと暑くかわいた感じだったそこの空気も、幾段か段を降りてくるとだいぶ違う。
　スーッと上に抜けていく風が、だんだんひんやりとして涼しい感じに変わっていく。
　クンレンジョウとはだいぶ違って、ひんやりとして少しだけ湿った、気持ちの良い空気が、下の方から流れて抜けていく。

「ここ、涼しいね――」
「ええ。あんなかわいたところでは、私もあなたもつらいでしょう。少し気楽な場所で涼んで、そこから行先を考えましょう」

　けっこうな段数を降りたあと、ボクとサヤは並んで段に腰をかける。
　息をつき、髪についたゴミを取りながら櫛を通し、ゆっくりとサヤがそう口にする。
　荷物からちいさなチョコレートを取り出して、ユノと口の中へとひょいといれ、そしてサヤや自身の口の中にもひょい、入れる。

　そういえばたしかに、このところゆっくり休んだ記憶はないしなあ……。
　まいごになったり、闘ったり、かけまわったり、その繰り返し。

　クンレンも大事だけど。
　おやすみも、だいじ、ってことか、なあ……。

　この階段には、変な感じはあんまりしない。
　ちょうどいいからボクも、油を差してしまおう。

　ユノのいる油さしを取り出して、ぴこぴこと継ぎ目に油をさしていく。
　その様子に気づくとサヤが、「ちょっとかしてね」といって油さしを手に取る。
　ボクには差しづらい背中や後ろの肩のところの継ぎ目の、油さしを手伝ってくれた。


「ねえ、この階段――どこに続いているんだろう――？」
「確か、マシェが“女神の園”に続いていると言っていたわ。
　白いふしぎな２人組を追っていったら、この階段を見つけたって」
「白い――２人組――？」
「ええ。でもそれ以上は聞いては――」
　何となく、サヤのふんいきがちょっとかわったかな？　という感じがあって、団らんに近い会話が唐突にきれた。
　……よーな、ところまでは認識できた、気がした。


　どん★ミ


　いきなり突き飛ばされた感覚、そして次に襲ってきたのはいろいろが回って、ぐるぐると回っていくカンカク。
　ぐるり、とまわりがまわってまわって、そして――どかどかと、ぶつかりながらおちていく感覚。

　ごろごろごろごろっ……。
　だいぶ長い間、冷たくて暗くて硬い石造りの階段を転がり落ちて行っているんだな、ていうのはわかった。

　そして程なく、とうとつに、ぽいっ。

　ごろごろ勢いついたブリキの身体は、影さしたその下り階段から投げ出されるように、いきなり明るい場所にポイと放り出される。
　放り出された後もなかなか止まらず、明るいそこを少しの間転がっていく。

「いきなりなにするすんだよサヤ！！！」
　転がるだけだった状態から地面をブーツで蹴って、なんとか飛び起きて体勢を整えて。
　帽子を押さえて、階段の入り口の方――というか空？　に向かって思わず声出して怒鳴る。

　あの場にはボクとサヤ、あとケイヤクしたエンブリオ以外には誰もいなかった。
　間違いなくサヤに突き飛ばされた、いきなり突き飛ばされた、なんのつもりだ、マジ油断した？！
　あれ、でも何か視界が変だ、何かない……って仮面がない！？

　スカスカする感じに慌てて帽子をそっちにずらしつつ顔を抑え隠して仮面を探す。
　からからから――と遠くから、何だか軽快な音が、響いてる。

　からからからから――ぽっちゃん。
　――ぽちゃん？　何かが落ちたような、水の音？

　慌ててそっちに駆けていく。
　ぽちゃんと鳴った辺りでは、何だか見たことのない、白い２人組がケンカしていたけど、そんなことは今は、知ったことじゃなかった。

その話をするロッテの表情には、影が差している。
いつも騒がしいティーも、今は珍しく押し黙っているようだ。


ショウと牛頭のやり取りを見て、

口でそう言ってはいるが、その表情は晴れやかなものだ。

光がブリキの子どもの肩に舞い降りるのを見て、

と、少し感動していた様子だったが、頓珍漢な発言を受け、

ティーはブリキの子どもの動きを感知し、

ロッテのグーパンチがティーの宝石にめり込む…！

宝石の輝きが徐々に暗くなっていく。一時的に機能停止したようだ。