「楽しいですよ」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―――― 付き添い




「居心地いいわ、ここ」
「道も舗装されています。誰が手入れしているのかは解りませんが」

　グリーンパレス。自然の森を最低限切り拓き、装飾を配置した森の一角。
　備え付けの白いベンチに腰掛ける。周りの安全を確認したコノエが後ろに控えた。エンブリオたちも各々好きなように寛ぎ始める。
　城内よりも危険とされる場所のはずなのに聞こえるのは鳥の囀り。どこまでも穏やかに流れる時間と澄んだ空気。
　さっきまで居た女神の園も居心地のいい場所だったけれどこっちも中々良い。
　一揆の舞台になる以上個人の持ち物じゃないはず。普通に考えれば国（イコール、新王）が管理していると思う。
　でも辺りを見るに破壊の痕跡も誰かが森を害そうとした形跡も認められなかった。
　単にまだ人が少ないだけかもしれないけれど。少なくとも先人たちは常識人だったらしい。

「ん……こういうところで本を読むのがいいのよね」
「程々に日差しも遮られて風も緩やかですから」

　コノエもほんの少し気持ち良さそうにしている。彼はどちらかというと自然に近しい存在だから当たり前だけれど。
　力を抜き後ろへ倒れる。頭をそっと受け止めてくれるのは鍛えられた太腿。
　苦笑する気配を見上げた。木漏れ日を受け柔らかく輝く銀髪。森に溶けこむような翠の瞳。
　少しでも休まればいい。目を閉じ、エルの歌声に耳を傾けた。



　人を殺すことが好きか。そう問われれば否と答えてきた。
　正確に表現するなら『何かを害すことを楽しむことができる』だけだから。
　戦場で敵を一刀両断することを楽しむことができ、見せ物として罪人を散々に弄び殺して楽しむことができる。
　けれど猫や犬、牛でも馬でもいいがそういったものを害することが好きかと問われれば否だ。間違いなく。
　なら今まで私が惨たらしく殺してきた数多の生物――時に人や動物や魔物たちと何が違うのか？
　簡単だ。私を害するかどうか、それだけ。
『ヒトは殺すよりも殺されるほうを選ぶ』
　そんなデータがあると聞いたのはいつだったか。実際、自分を殺そうとする存在に対して恭順し殺されるか反逆し殺すか、というのは『その時に実行できるかどうか』という大いなる問題があるが。
　でも。その状況で。

　間違いなく、躊躇いなく、殺す方を選んだ。

　敵は圧倒的だった。殺そうとするということは、殺す方法を持っているということ。それだけで圧倒的と言うしかない。
　殺す方法をくぐり抜けて相手を殺す。こう書くと結構に無理な話をしているように思うし、普通は無理と思うだろう。
　だができてしまった。可能にした。可能だった、私には。
　必死だった。死ぬほどの傷を受けた。当たり前に。しかし。
　しかし。

　言いようのない興奮、高揚、そして――愉悦！

　楽しいとか喜ばしいとかじゃない。愉悦。そう言うに足る感覚が私を満たしていた。
　もっとも、それを自覚したのはすべてが終わった後。
　　　　　　　　　・　・　・　・　・　・　・　・
　即ち、『私が殺す側へと転じた後』だったけど。
　だからこそ私は言う。人を殺すことが好きではないと。

　　　　　　なんかすごくへこんでいる。
　　　　　　orz

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。