とつぜん、うしろからかけられたこえに、猫はいきがとまりそうでした。


あいたくない、けれどもあいたい。
すこししかたっていないはずなのに、なつかしさをかんじるこえ。


なんで――どうして――？


ゆっくりと、猫はふりかえりました。













「よォ、相変わらず馬鹿やってんなァ？」


「坊ちゃんに対してその口のきき方は感心しませんね。貴方の契約主でもあるのですから。」




おっかなくみえるけれどこころはやさしいとりといつでもおちついたせわやきのひつじのしつじ――ししょーとセバスチャンが、そこにいました。













『どうして――どうしてここにいるのです！？』


やっとのことで猫がいえたのはそれだけでしたが、


「どうして、ってそりゃあこっちの方が聞きてェな。王様退治はやめたんじゃなかったのかよ、おめぇは。」


ぎゃくにそういわれてしまうと、猫はなにもいえません。
みかねたセバスチャンがたすけぶねをだしました。


「良いんですよ、坊ちゃん。――大体の事情はお聞きしました。」


『！？』


それは猫にとってはおもってもみなかったことで、ぎょっとしてふたりをみつめます。
いったいだれに――？


「あの黒狼――セリィ、だったか？あの姐ちゃんが教えてくれたのさ。」


そのなまえをきいてはっとかおをあげました。
きっとセリィおねえさんはあのあとも猫のことをしんぱいして、ふたりにおしえてくれたのでしょう。


「――話は分かった。で？」


『……』


「力が強くなれば周りに不幸を振り撒くかもしれないから。迷惑をかけるから。だからおめぇはあんなヘタクソな芝居までして俺らと別れた――そうだな？」



猫は、こくりとうなずきました。
それをみたししょーは、きもちをおちつけるかのようにおおきくいきをはきだしました。


「で――俺等と別れてどうするつもりだったんだ？」


「どうやら一揆は続けてたみてェだが――その後は？
一揆が終わったらお前はどうするんだ？周囲に悪影響を及ぼすなんて言われたら――あんなことまでして俺達と別れようとしたお前の事だ、居場所がどこにもないなんて思ってたんだろ？違うか？」


びくり、と猫のからだがふるえました。
おうさまをこらしめた、そのあと。
どうするか――どうしなければいけないか。
わからない。わからないけれど。
みんなをまきこまないために猫がすべきなのはきっと――







「それならいっそ――死んじまった方が皆の為だ――そんな事考えてたんじゃねェのか？」






























ながい、ながいちんもくのあと。
猫は、ちいさくうなずきました。



















きっと、それがみんなのためだから。
みんなのしあわせのために、猫はいてはならないから。


























「こんっの、大馬鹿野郎がァああ！！！」




ものすごいけんまくでどなると、猫におもいっきりたいあたりをしました。

ふきとばされて、びっくりした猫はなにがなんだかわからずにめをしろくろさせています。

ふうっ、とゆっくりといきをはいてししょーは猫のまえにおりたつと、




「誰がいつおめぇに迷惑だから離れろなんて頼んだよ？あァ？そんなことは一言も言っちゃいねェだろうが！！」


「おめぇといると不幸になる、だァ？・・・・・へっ、上等じゃねェか！！そんな不幸なんざクソ喰らえだ、俺が蹴散らしてやる！！」


「おめぇもおめぇだ、そんな事一人でウジウジ悩んでんじゃねェ！！俺達の為に死ぬ、だ？ふざけんな！！そんなモンはおめぇの勝手な自己満足で迷惑なんだよ！！
おめぇは本当に死にてぇのか？――おめぇ自身の本当の気持ちはどうなんだよ！？」


「何の為に俺達がいるんだ？もっと俺等を頼りやがれ！！俺は―――おめぇの師匠なんだろう！？」















なんで、どうしてなんだろう――？

これじゃ、いままでのじぶんが、ばかみたいだ――















『――き、たい…のです…』



「・・・・・ッ！？」


ぼろぼろとおおつぶのなみだをこぼしてなきだした猫。いきなりのことにさすがのししょーもうろたえました。




『小生は、みんなといっしょにいきたいのです！！
あそんで、おいしいものをたべて、いっしょにわらって、ときどきけんかして、でもまたなかなおりして！！！
もっともっとみんなといっしょにすごしていたいのです！！』







「――ったく、最初から素直にそういや良いんだっての。」


やれやれ、といったようにつばさをひろげておおげさにためいきをついたししょー。


「言い方というものがあるのではないのですか？まったく、これだから乱暴な方は――」


そういって、セバスチャンがゆっくりと猫にちかよるとハンカチをとりだしました。


「ですが、彼の言っていることは一理あります。坊ちゃん、もっと我々を信頼して下さい。」


『小生は…みんなといっしょにいてもいいのです…？
…いきていても…いいのです……？』


「――当たり前です。坊ちゃんが犠牲になる必要がどこにあるというのですか？」


ハンカチでなみだをぬぐうセバスチャンのめはとてもあたたかでした。







「よかったね、ロクっ！！」


シュテルンもちかくにやってきて、


「ほら、ちゃんというんでしょ？？がんばって！！」


と猫をはげまします。



ハンカチをうけとってなみだをぬぐいさった猫。

そのかおはまえよりはれやかです。


『ししょー、セバスチャン…ごめんなさいなのです…！』


そのままふかく、
そのようすをじっとみつめていたししょーとセバスチャン。
しばらくのあいだちんもくがつづきましたが――


「・・・・・まァ良い、だが、二度とこんな事すんなよ？今度はこの程度じゃすまねぇぞ？」


「全く、貴方という方は素直じゃないですね。素直に戻ってきてくれて嬉しいと言ったらどうです？」


「なっ、ち、違ェっての！！」


それはなつかしいいつものにちじょうとかわらなくて。
















「――おかえり、バカ弟子。」


『――ただいま、なのです！』

だから、分解することもできないらしい。

すべて光らせているのを見て。