『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.18.10:55、とある広間にて――


　ぽちの言う『でぃい』さんはすぐに見つかった。
　長い黒髪に黒い衣服、黒い羽根の外套と黒ずくめの男の
紅い瞳と合った瞬間に、彼が『でぃい』さんだと判った。
　彼のモデルとなった人物、クルゥと似て似つかぬ容姿だ。
長身ではあるが、華奢で女性的な容姿をしており、彼が
男だとは同じ型のロボット以外、すぐに判らないだろう。
　彼はにこやかな表情で右手を差し出した。
「君が同型機のミライか。俺は……ディーとでも
名乗っておこう。既にデータは送信済みだが、
フルネームが長すぎて、自己紹介に困る名前でね。
フルネームの紹介は略させてもらうよ」
　少し低めの中性的な声だった。
　視覚を通じて得た情報によると、彼のフルネームは
一般的な名前よりも、かなり長かった。名前と言うよりは
機体の正式名称をそのまま名前にされたようなものだった。
「宜しく。ミライ＝ツルギノ」
　彼の手を握り替えして握手する。人間の皮膚に似た
感触と微かな温もりがあった。
「こちらこそ。ディー」
　握手する手に力が籠もった。
「……ディー？」
　彼はにこやかな表情を崩さず、声の抑揚も変えずに
言った。
「挨拶のついでに重要なことを言っておく」
「重要なこと？」
　右手にかかる力が強くなった。声も若干低くなる。
「俺の役目にはグローリア博士の護衛がある。
グローリア博士に必要以上の接触をしないことだ。
兄弟機と雖も、容赦なく叩きのめすかもしれん」
「博士には世話になっているんだ。多少の接触はあるさ。
兄弟機くらい許せよ」
「駄目だ。俺の信用がかかっているんだ。兄弟機でも……
まさか、グローリア博士に気があるんじゃないだろうな？」
　俺は手を振った。ぽちが情報を送ったのか？
「いや。そんな感情は全くない。恋愛感情について
思考を繰り返したことはあるが、俺には理解出来なかった」
　ぽちが何かを言いたそうに、頭の上で飛び跳ねた。
　未だにグローリア博士に気があると言いたいのだろう。
しかし、無駄とも言える思考の末、それはないと断言出来る。
ロボットにそんな感情はない。いや、感情自体がない。
「安心しろ。お前の博士を取ろうって気はないよ」
　判りやすい奴だ。色白の肌にうっすらと赤みが差した。
「いや、俺は……博士を守りたい。博士を守るのが、
俺の仕事の一つってだけで、俺達はそんな関係じゃない」