手中に風がある。蝶のその幻惑がある。
蛇龍の語った原理はもはや僕にはどうだってよかった。死に瀕した赤子であった自分を救い出した話、その際に生まれた目に見えぬ繋がり、それが生んだ力でありそれが妖精――ひいては気配に聡い獣を遠ざけ、僕の悩むその原因となっていたこと。これまでなら柄にもなく激昂したであろう最後さえ吹き飛ばす程度には、手に入ったこの存在は大きかった。
ネクターがなければエンブリオの力は維持できず、そして華はこの世界にだけ存在している。よって世界を跨げばこの力は消える。
消えるか？　いいや。抜け道はある。永遠ではなくともその力を、メルンテーゼに永遠に足を踏み入れることが叶わなくとも、長きにわたり保ち続ける方法は。

表情筋は、自分でも驚くほどどこも動いてはいなかった。
それでも僕は笑っていた。
その手段を考えついた時、僕は隣にある蛇にそれを悟られぬように腹の底のみにそれを収めながら、しかし確かに腹の底から哄笑していた。

否定しようとしたができないようだった。

嬉しそうに声を弾ませるパロロコン…クロエといったか？　…を見ながら、フィーグルは目を細める。

自信ありげに片手を上げる。


レナートに続きを促されれば、若干言い辛そうに。

何やら萎縮した様子の少年を、軽く宥めるようにして。
次いで、喋りだした蛇へと視線を向け直し。