「区別はできます」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―――― 選別

　巨大を名乗るのなら見上げるどころかその辺の建物なら蹴躓いて粉砕できるほどの体躯であるとか。或いは惑星と同じサイズであるとか。そこまで行って初めて名乗って欲しいと思っている。
　どんなに巨大だろうとエンブリオの力を借りた人間サイズのものにやられるのならそれまでだ。
　そう思いながらやれやれとため息を吐けばキィキィという鳴き声の音量が上がった。基準が違うだけの話でしかないと思うがこの女には相当なプライドがあるとみえる。

　指したのは赤い女。噂によると名前はファルマだったと思う。エンブリオにアレ、と指されて発狂度が増した。
　形だけ上から下まで眺めて首を横に振る。頭を掻き毟り始めたのは年頃の男にそういう反応をされた女としては当たり前かもしれない。
　ユキアネサのほうがよほど良いと告げてやるとヴィンテは「そうですかぁ」と返事をしてファルマに対する一切の興味を失った。

　以前は性別や外見に多少の拘りを持っていた気がするがもう失われて久しい感情だ。
　男でも女でも。人間でもそうでなくても。大きかろうが小さかろうが。生きていようと死んでいようと。
　究極にして極端だが、私にとってそれらは全て同じだ。私以外であり、女王陛下以外。

　「次は」「未来を」「可能性が」

　変化を望まず停滞に心地良く微睡める者が逸脱者である。
　私は恐らく退屈では死なないが他は死ぬ。だから刺激を。思わぬ鞭を。或いは飴を。
　それらを与える相手に選ばれたのがヴィンテやアリジェであっただけで、根本的には誰でもいいのだ。
　誰でもいいからこそヴィンテは気にしている。籤で選ばれただけの特別を得るものを。それが特別ではないと知りながら。

神楽は無警戒に芋を頬張った！

神楽の頭の中は年中春だった！

　ざわざわとくすぶる胸の内を悟られぬよう、
　ナスルは微笑みを浮かべてコノエやアラトを見ていた。

　さて、と並んだストゥーラにナスルは目を転じる。
　ぐるりと時計のように円をえがく石の数々は、
　21時の方角より反時計回りで並べられる。

　《枯蔦・裏》→《芸術家・表》→《鎖・裏》→
　《月・表》→《鈴蘭・裏》→《十字・表》→
　《瞳・表》→《骸・表》→《劇薬・裏》→

　そして22時方向に《天使・裏》の描かれた石で締め括られている。

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。

モルトは心地よさそうに鼻歌を歌っている。