『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.16.20:58、とある個室にて――


　機械に心は無い。思考の試行は。機械には不要だ。
　表面上は心があるように見せかけても、内部は虚ろなもの。
常に命令を繰り返すだけ。多少のバグと欠陥を除けば、
誤りも無駄もない。それが、俺に与えられた命令……役割。


　ぽちは無駄に豪華な光の紙吹雪を振らせてきた。
「遅くなったけど、改造御目出度う。ロボット用の疑似食品が
食べられるようになったんだってね」
　虹色の紙吹雪がゆっくりと降り注ぐ。
「いいなぁ。本物ではないにせよ、マスターと同じものが
食べられるなんて。羨ましいな」
　つい先日、無駄な改造が施されたのである。テストと
メンテナンスのお陰で出てくるのが数日遅くなってしまった。
　戦闘面での強化は無理だが、無駄な機能の追加は出来るらしい。
全く、無駄な機能である。人工皮膚を維持するための水と
エネルギーさえあれば、俺は問題なく活動出来るのだ。
　人間の食べる食品に似せたロボット用疑似食品を摂する意図が
判らなくもないが、俺にとっては感情レベルの不要物だった。
結局、摂するものの正体は普段の水とエネルギーに違いはない。
完全に『消化』出来るという、自然環境に優しいものでことは
評価出来るかもしれないが。人間のふりをするのにも
役立つかもしれないが、そういう役目は俺の仕事ではない。
「そこでお祝いにお寿司のプレゼントを用意したよ」
　見たことのある食品だった。西洋風の四角い皿に握り寿司と
呼ばれる食品が綺麗に並んでいた。
「お寿司の立体データを元に特殊立体複製機でエネルギーを
固形化したんだよ。着色は飲食に害のない、消化の可能な
粉末を使ってるんだ。ちょっと濃いめの色になっちゃっただけど、
綺麗に出来てるでしょ〜」
　どうやらぽちが作ったものらしい。
「……有り難う」
「あれ？　嬉しくなかった？」
「いや、嬉しいよ？」
　疑似的感情が出した答えである。本物の人間なら、御馳走を
目の前にすると、本当に心から喜ぶのだろう。俺にはない。
　俺は俺を客観的に見ていた。そう、見てしまう自分が居た。
「食べるという形での補給は初めてだから、慣れない感覚に
戸惑っているだけさ」
　一つだけ口に放り込む。味覚も嗅覚もないが、それぞれの
成分を分析しながら食べた。特に意味はない。
　無意味だと知りながら、よくある答えを返した。
「うん。美味いな」