(※引き続き一揆とは殆ど関係のないお話です)

「よくぞ我等の呼び声に呼ばれてきた勇者よ。
　その力をもって魔王を――」
大きな魔法陣がかかれた薄暗い部屋に、
黒いローブ姿の男達の中央にいる偉そうで、
豪奢な服をきた中年の男……というより、
物語の王様のような姿をしている所から察するに、
事実王様なのだろう。
だとすれば、周囲の黒ローブ達は私を召喚した魔法使い……
といった所だろうか。
全く――
異世界召喚にも色々あるけど、
これほどベタベタなのに遭遇するとは思わなかった。
召喚された原因については分かっている。
かつて島へとおもむき、
異世界が本当にある事を知り、
それ故、
異世界への行き来への研究を通じて、
時折異世界へと派遣される事になったせいだろうか。
最も誰しもが異世界にいける訳ではなく、
異世界適正と呼ばれる、
異世界に移動する素質が無いと異世界へ渡る事が出来ないと判明し、
また、
その適正をもっている者も世界でほんの数名……
多くても３桁には届かないらしいが。
また、研究も完成した訳ではなく、
様々な問題も示唆されている。
これも問題の一つと示唆されていたもので、
こうして転送事故のようなもので、
召喚される事があるというもの。
その危険性だけは示唆されていたのだが、
あくまで可能性は可能性だし、
確立も低いとの事だから、
まさか己が実証する事になろうとは思わなかったが。
元の世界との繋がりが断たれて無い以上、
戻る事は可能だろうが……
折角異世界召喚されたのだから、
もちろん私のやる事は一つ。
この世界を堪能する事。
「……聞いておるのか？」
どうしたものかしらと考えるうちに、
王様の話が終わっていたらしい。
当然の事ながら最初以外聞き流していたので、
全く聞いてはいないので、
私は正直に。
「あら、ごめんなさい。
　途中から聞いてなかったわ。
　私が勇者なので魔王を倒せって話よね。
　そうねぇ。
　別にやってもいいのだけど――」
やってもいい、その言葉を聞いて王様は嬉しそうに、
「おお、それでは――」
受けた事にして話を進めようとするが、
そんな事は私の知った事ではない。
最高の笑顔で、
「喜んで――
　断るわ。」
断った。
辺りの空気が凍りつく。
まさか断るだなんて思って無かったらしい。
馬鹿げているというかなんというか。
折角なので固まっているうちにまくし立てる事にした。
「あら。だって戦って何の得があるのかしら。
　金？名誉？
　別にいらないわ。
　お金なんて稼ごうと思えば稼げるもの。
　私が勇者だというなら魔物を倒せる力があるって事でしょう？
　魔物が居て危機に瀕しているならそれこそ引く手数多。
　名誉に至っては私そんなものいらないわ。
　そんなものがあっても余計な物を引き寄せるだけだし、
　そもそもこちらの名声なんて役に立たないわ。
　どうせ元の世界に戻るのだし。
　戻る方法がないにしても、
　平和になった世界に勇者は必要ないでしょう？
　魔法のアイテムも別段欲しいものはないわね。
　私が欲しい程のマジックアイテムがあるのなら、
　私に頼る必要はないのだし。
　ああ、元の世界に戻すのと引き換えも無しね。
　元の世界に戻る術は私はもっている。
　……言っている意味が解るわよね。
　貴方達では私を満たす報酬を出す事は出来ないわ。
　ああ。男をあてがうって手段もあったかしら？
　でも……お生憎。
　自分の相手くらい自分で探すから必要ないわね。」
お分かり？
とでもいうかのように私は微笑む。
そこまでいってようやく、
私のいってる事に気付いた何名かが、
無礼な！
勇者といえどそれ以上の暴言は許さんぞ！
だの、お約束の台詞をいって私を警戒し、
攻撃の用意を始める。
そして、王様もやっとこちらの言った事を認識したのだろう。
今にも攻撃しようとする者達を手で制し――
「なるほど。
　それは分からないではない。
　確かにそうやもしれぬな。
　だが、勇者よ、
　主には世界をすくって貰わねばならぬ。
　勇者でしか魔王は倒せぬのだから。
　無論、
　新たな勇者を呼び出してもいいが、
　それには莫大な時間と魔力が必要になる。
　――どうしても嫌というのであれば、
　実力行使で汝を排除せねばならぬ。
　勇者は強い。魔王を倒せる程に。
　だが、勇者は強くなっていくものであり、
　呼ばれた瞬間から強い訳ではなく、
　――魔には強くても人ではそうはいかぬ。
　……こういうやり方は好まぬが……
　実力行使に訴えても構わぬのだぞ？」
脅し文句をかけてくる。
なるほど。
確かに命が惜しければという交渉くらいしかないだろう。
私の了承を得るのであれば。
無論、 穏便な方法がないでもない。
だが、
それをしている時間が惜しいのだろう。
私がダメならば、
一刻も早く次の用意をせねばならないのだから。
彼等には時間がないのが伝わってくるし、
それを理解している。
だが――
「好きにすればいいわ。
　そうね。
　王様。
　貴方の剣で私の首を刎ねられてはいかが？
　抵抗しないでも良いわよ。
　実力行使、というならそれくらい容易い事でしょう？
　まぁ、自分の手を穢すのが嫌なら――
　そこにいる人達に命令するなりやらせてもいいと思うけど。」
それもまた私には無意味だ。
だが、予想通りというかなんというか、
戸惑ったような表情を浮かべる。
それはそうだろう。
年端もいかぬ小娘が怯える事も躊躇する事もなく、
殺すなら殺せといっている。
かといって死ぬ気がある様子もないのだから。
望み通りにといわなかった事は評価したいと思う。
ならばとりあえずは十分か。
そう考えため息と共に、
おもむろに懐から小刀を取り出すと、
あわてたように王を守るように男達が動く。
だが、私の狙いは王ではなく――
「じゃあ、
　貴方がやらないなら私がやるわね。」
その抜き放たれた刃を己の首へと突き立て引き抜いた。
引き抜かれる刃と共に迸る私の鮮血が、
辺りを紅へと染めながら私の体温を奪っていく。
凄惨な光景であり、
ありえないものをみて驚愕と恐怖にひきつる男達の姿をみながら、
私は笑いその場へと崩れ落ちる。
――かくして勇者として召喚された少女は、
己の命を絶ってしまったのです、
めでたしめでたし――

で、終わっても良かったのだが――
私は倒れ伏した身体に力を入れて立ち上がる。
己の血で赤く染まり、
今や黒ずんでいくのを気に止めもせずに、
恐怖にひきつる男達へと笑いかける。
既に傷は塞がっている。
言葉もない彼らに私は先手を取って言葉を告げる。
「――頭を潰せば？
　心臓を砕けば？
　人間でないのならば弱点となる核を潰せば？
　お生憎様。
　私は人間だし、
　そんな事をされても死なないわよ。
　例え灰となっても、
　塵となっても同じ事。
　――その程度で死ぬのであればとうの昔に死んでいるわ。
　それで、
　貴方達が与えられるものを欲さず、
　実力行使も不可能。
　そして――貴方達が化け物と思った私をどうするのかしら？
　……何も無いのであればこのまま外へと行かせて貰うわ。
　ああ。
　捕まえる？監禁する？
　それも無理ね。
　だって――」
男達が声もなく次々に崩れ落ち、
王だけが残される。
私はただにっこりと王へと微笑みかけただけだというのに。
無論、私は微笑みかけただけではないのを知っている。
霊をとりつかせて強制的に意識を断たせたのである。
確かに魔法を使え、
霊を見たりする事は可能だろうし、
実際ゴーストみたいなモンスターとの対峙もして来ただろう。
だが、私が使ったのは意識しないような弱い霊達。
気にも留めず、
意識の外にあるが故に気付かれない。
更に言えば、
私に意識を集中させていたから尚更である。
「――私に触れる事すら出来やしないわ。」
捕らえる事すら出来ない事を伝える。
生殺与奪ですら私の手のうちにあるのだと。
クスクスと笑いながら王の様子をみる。
震えているだけなのか、
それとも従順になるのか或いは――
「ふ……ふははははははははッ！」
どうやら、王は或いはだったらしい。
思わず笑う王に狂気は微塵も見せない。
こちらが己の思惑を超えた事が痛快だったらしい。
恐怖は確かにある。
だが――
その顔に喜悦が浮かんでいる所をみると、
成程、ただの愚昧などではなく、
間違いなく王は一角の人物なのだろうと思う。
「素晴らしい、見事だ。
　勇者殿は何も望まず自由を望み、
　その自由を貫くだけの強さももっておる、か。
　成程。
　ここまで見事にこちらが手詰まりになり、
　余の命すらも握られるとは――
　……やはり、勇者殿は勇者殿。
　それでこそ魔王に倒すにふさわしい……
　いや、魔王を倒すに足る人物だ。
　ああ。
　魔王を倒せるとしたら勇者殿ほど相応しい者はおるまい。
　だが、困ったな。
　……どうすれば魔王を倒してもらえるのだろうか。
　余は例えここで命果てようと何度でも言おう。
　頼む。
　……勇者殿。魔王を倒して欲しい。」
何せ――
ここまで来てなおも頼むというのだから。
私が素直に言う事を聞かないのは十二分にわかった上で、
私が化け物に等しいと分かった上で。
それでも――
頼む。と。
真っ直ぐ見つめてくる瞳にも、
魂にも嘘偽りがないのは見て取れる。
ハァ、と私はため息を一つつく。
全く。実際の政務はどうであるかは分からないが、
少なくともこの国の人達は幸せ者だと思う。
少なくとも、
この王は私を面白いと思わせた。
それは即ち――
「そうね。
　じゃあ、契約しましょう？」
「……契約……？
　しかし……」
「出せるものはない？
　別に構わないわ。
　私は魔王を倒す。
　その代わりにそちらは……
　ま、魔王を倒した後の世界を平和にしてみせなさいな。
　気が向いたら来ればいいだけの話だし。
　ああ。心配要らないわよ。
　私の世界からこの世界にちょっかいかけるつもりはないから。
　そちらがちょっかいかけない限りは……ね。
　さて、貴方は私の契約を受けるのかしら？
　――魔王がいる世界で生きる方がマシかもしれないわよ？
　それでも契約しようというのなら――
　約束は果たすわ。
　勝てなくても其方にリスクはない。
　時間は確実に稼げるから、
　ゆっくりと次の勇者でも召喚すればいいわ。
　どうかしら？」
破格の条件を付きつける。
契約とは普通であれば私が有利な条件を突きつけるものだが、
私が有利になるのではなく、
私が不利になる条件を付きつける。
普通ならば怪しんで、
受ける事を躊躇するだろう。
それほどまでに破格である。
何も考えず受けるなら、
警戒が無いともいえる。
だが――
「これは手ごわいな。
　だが、それ以外に方法はなく、
　魔王を倒した後どうするかは、
　この世界にすむ者の務め。
　……その契約受けよう。
　例え魔王より恐ろしい悪魔の契約だろうと……
　裏切られようと構わない。
　……勇者殿に賭けよう。」
リスクを承知の上で、
迷わず賭けにのる王。
その答えに私は満足し――
「契約は成立。
　それじゃあ、サクッと魔王を倒してきてあげる。
　地図を貰えるかしら。
　それ以外いらないわ。
　何かあったとしても、
　私は使えないし、
　使う必要がないもの。」

「――と、まぁ、そんな事があったわね。
　王様ネタだと。」
「それ何処のテンプレ異世界召喚っていうか、
　召喚した方も魅月さんが乗ってくれたから良かったものの、
　明らかに魔王倒すために大魔王召喚するようなもんだよね。
　災難すぎる。」
「あら、アルネスさんも言うようになったわね。
　まぁ、魔王は強かったわよ。
　正直真正面から戦ってたらしんどかったと思うけど……」
「殺された人や魔物の霊で圧殺したんですね、分かります。
　……物量作戦使う勇者って……」
「有効活用しないと大変だし、
　危険だし、
　面倒じゃない。
　それに私の唯一といっても良い武器であり、
　特性よ？
　有効活用しないと。
　それに流石に物量でおしても私の守りなかったから、
　何度か死んだし。」
「それ。守る必要ないだけですよね？
　どうせやられても蘇るって最悪過ぎる。」
「ま、魔王でも殺せないのも確かめたしね。
　なんというか詰まらなかったわ。
　戦い自体は。
　一番面白かったのが召喚された直後だけ。
　だから、
　魔王倒したらさっさと帰ったわ。
　魂は貰ったし、復活は無理ね。」
「魔王も災難すぎる……
　どうしてこうなった。
　って思ってるよ。
　真っ当な勇者相手ならまだしも……
　……自分でなくてよかったなぁ。」
「貴女に魔王は無理よ。」
他愛のない会話。
王といっても様々だけど、
はたして、ここの王様は私を楽しませてくれるのか。
楽しみが増えていく事に、
思わず笑みを零した。

返事もそこそこに立ち去りました。
周囲にミカヅキの姿は見えません。

妖力に取って代わる異世界の力[マナ]への土蜘蛛達の好奇心で、使いっぱ若手にして生命力だけはある岩絃を島へ送り込んだのがそもそもの始まりであり。

知らぬが仏と揶揄した朔の気持ちも、今なら解る。
それくらいに、知覚できるようになってから知り合う魅月嬢は…恐ろしい。
先に人としての彼女を知っておいて本当に良かった。

この地でのシオンの目的はあくまで情報収集。
皮肉にも、それが適したスタンスなのかもしれない。

あまり具体的に語ろうとはせず、軽めに流す。
特に話題がなければ、話はここで終わりそうだ。

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肩を竦めてみせた。