『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.08.16.15:17、とある個室にて――


　人間の感情を模擬する。
　単にそれだけのことであるが、俺はその行動に疑問を
抱いていた。
　機械である俺は、与えられた命令を淡々と
こなしているだけに過ぎない。疑似的感情という、人間の
感情を模倣した命令をこなしているだけだ。そこに、
感情は含まれない。作られた機械に感情はないからだ。
　重要だが、この話に関する話で、今は不要な情報も
付け加えると、俺は生命も持っていない。勿論、
機械……ロボットに分類される機械だからだ。


　つい最近になって完成した同系統の兄弟の一人、
アニマはこう言った。
「……いや、分からなくないけどさぁ、ツルギは
考え過ぎじゃねぇの？　模倣して楽しむってのも
アリなんじゃねえか。人間的思考ってヤツを分析して
理解するんだよ」
「それがツルギの特徴かもしれませんよ」
　彼の言葉にアニムスが答えた。彼女もまた
兄弟機の一人であり、アニマとアニムスは双子でもある。
　彼女は単なる装飾として使用している眼鏡をかけ直す。
「ツルギの思考回路は、我等のシリーズの中でも
特殊な構造になっていると聞きます。恐らく構造の
違いもあるのではないでしょうか」
　彼女は花柄のティーカップに口を付けた。中身は
人間が飲用する紅茶である。
「……あら？　飲まないのですか？　紅茶って以外と
『美味しい』ですよ？」
　心の無い機械が、心にも無いことを言う。
　疑似的感情の判断は誤ってないのだろうが、それは
処理された命令の結果であって、心ではない。
　機械に理解出来る筈がないのだ。全て命令なのだから。
　俺は出されたカップに口を付けた。機械故に
味覚はないが、簡単な成分の分析、人間的な結果の
判定を出すくらいは出来る。
　やや苦味のある茶葉に、柑橘系の果実の成分が
混じっている。フレーバーティーだ。
「俺には、まだ人間の嗜好がよく分からないな。
ただ、ほんのりと甘味があるのと柑橘類の匂いがするのは
分かった」
「ツルギ、一応は感情の処理が出来るのでしょう？
仮にも疑似的感情を与えられているのですから、
人間的感情で答えて欲しいものです」
「すまん、疑似的感情を与えられた意味が、
まだよく判らなくてな。俺達、ロボットに
感情は本当に必要なのかと……」
　破損を防ぐためなら命令一つで力を制御出来る。
そこに感情はなくとも、命令さえあれば実行するだけだ。