痩せ細った三日月の見下ろす下で偽は歩いていた。侵攻し続けている山の一角に見つけた花畑。ここでは自然に咲いておりながら、用途としてはあまり『使い物にならない』花々が育っているらしい。例えば毒物として役立つとか、食用として使うだとか。毒草はこの中にも幾つか見受けられたが、しかしどれも軽度なものばかりで、一揆に役立つとは言い難いものばかり。
　草花をなるべく踏みつけないようにかき分けながら、腰を曲げて一本一本、群れの塊を一つずつ丹念に調べていく。夜風が撫ぜる一輪を、か細い指が伝う。
　ふと目について触れたのは、銀色の月光の中ではほとんど白として浮かびあがる、淡い五片を咲かせた花。綻んだばかりなのだろう、その愛らしく柔らかなひとひらひとひらに、少しだけ皺を作っていた。一つの花房に触れて、ついた枝の側へ指をすべらせて状態を確認。季節が少し過ぎた花だが、未だ健在と表すように咲き誇る。。
　くたりと目を細め、周囲をざっと一瞥した。
　花畑の絨毯群でもひと際明るく、彩り豊かな区画を広く作り上げている。その実、よくよく見てみれば同じ仲間であることが造りから知れる、白、紫、紅紫、赤などの花々であった。先の桃よりも一輪一輪が丸っこく、より房に近づいた形をしているひとつを見下ろす。

「花魁草……ふむ、よく育っていますね」

　ゆっくりと緩慢な足取りで踏みしめる、柔らかな土や時おり地面に敷かれた苔がくぐもった靴音をたてて、擦れた花や葉が乾いた響きをたてる。
　絨毯群の中でも、真逆にひっそりとまた白みの強い輝きを帯びる。憂いに満ちた女性のごとき、首を項垂れさす花々を見つけた。おもわず瞬き、口を軽く丸く開き、感嘆詞をもらす。
　奇異なる縁。しかし此度はしゃがみ込んで、人差し指を舌先で舐める。苧環、汁に触れただけでかぶれる全草毒草を、葉をふくめた根元付近までいくつか採取していく。
　そうしてほんの少し浮足立つ体。ふいと踵を返し、幾つかの毒草も色別にいくつか摘んで籠へと収めた。作業を終えてひと息つく。
　腰に手を添えて背筋を伸ばして再び立ち上がっては、草花の品定めを繰り返していき。
　――まだもうしばらくは花畑の散策を続けることにしよう。

自らと似た存在と言った相手をモクは上へ下へと目と顔を動かして観察する。

その目は興味と、少しの喜びを含んでいるように見えた。

しかし、観察を止めたかと思うとモクは首をかしげてこう言った。

そう言い終わると再び偽をじーっと見つめ始めた……

首をかしげる。先程、"触れ"た時に見たものも意味は不明だったが。
目前にいる少女は何者なのだろうか。
少なくとも、フィーグルの持つ知識に当て嵌まらない存在のように思えた。

未練など微塵もなく、あっさりと断った。
お礼を言われれば、疑問詞を浮かべて。

なんとなく納得できたような気がした。

分厚さにすこし驚きつつ見てみる…

一部の部分をみてちょっとひいたようだ。