ミズリィはシュルケーのことを自分が考えたキャラクターだという。不思議な話だ。あの小人……親指サイズのシュルケーは以前エルと会ったとき、大体の情報をこっそり手に入れていた。それで分かったのは、シュルケーがエルの世界の存在だという確信だった。

　まさかエル自身もミズリィの考えた物語の登場人物ではあるまい。エルは質問を選び、謎の全容を把握しようとした。

「……で、どんな話なんだい？　その、シュルケーが出てくる話っているのは」

「うーん、恥ずかしいけど、私とエルの間柄ならいいよ」

「いつの間にそんな関係に！？」

　ミズリィの話すことによると、彼女の書いた物語というのは魔法で全てが解決する世界の物語で、小さな親指サイズの姫シュルケーが自分の身体を取り戻すために様々な冒険をするという筋書きだった。

　魔王の住む山に挑んだとか、千年生きる死霊を封印したとか、火を吹く竜を退治したとか、ありきたりなストーリーだった。その物語は水たまりに吸いこまれる前の世界に置いてきたため、いまは存在しない。

「なんでまたシュルケーさんは自分の身体を失くしてしまったんだ？」

「よくぞ聞いてくれました！」

　最初は恥ずかしがっていたのに、いまではミズリィは自分の考えた話を饒舌に語っていた。

「シュルケーは魔法の姫。ある日、自分の伴侶を魔法で探そうと思って魔法を使ったのよ。でも魔法は失敗。王子様の代わりに連れてこられたのは、いたずら好きの混沌の神で――」