エンブリオ。それが意味するところは、胎児――精霊の幼生、転じて妖精。そんな洒落みたいなものなのじゃないか、そう思ってきたしそれを疑ったことはなかった。
そもそも別世界であるメルンテーゼにおける呼称を自分の世界の言語で測ろうとすることが馬鹿げた試みかもしれない。けれどもここには――たくあんと武具でできるものだとしても――チーズがあり、――それが僕らに襲いかかってくるものだとしても――野菜があり、――たとえ獣の血が混じっているとか言う、生殖上多分な疑問を禁じ得ない出自を本人が語るとしても――人間がいる。
文化の基盤は同一であって、その行使する手段と発展の道筋が異なっただけじゃないかと僕には思えるのだ。
だからこそ、同じ基準で考えることもまかり通ると、そうやって自分を納得させたりしていた。どうせ僕はそれ以外に物差しなど持たないし、使える気もしない。

embryo。それが意味するところは、em――内側において、bruo――育つもの。転じて、胎児。
逆に言えば、それが「外部に位置する」状態は本来の状態でない、ともとれる。

パロロコンに宿ったあれは、ヒュドラを「喰った」と言った。それきりヒュドラの姿は見えない。
それはある意味、エンブリオの本来の姿を取り戻した――そうも取れるかもしれない。
人やものに取り憑いて、その内側から力をもたらすもの。それがエンブリオの本来のありかただとするなら、僕はこの事態について、思考においては納得する。

いつも通りに指を伸ばして、しかし光弾ではなく風刃を望む。望み通りに、指先からは風刃が迸る。
元はシルフが出していたそれが、僕の意志で僕の身体から。
そしてそのシルフは今やどこを探しても見つからず、しかし確かに契約は維持されている。
それから導かれる、最も可能性の高い結論は。

内に育つそれが、果たして生まれ出る日が来るのかどうか。
その答えを僕は知らない。

興味のある様子だった。

どちらの名前もね、と捕捉する。