イヴお嬢様の豹変に驚愕する事はなかったが、落胆はあった。

　……――恋ではなかったのですか。

　非常に残念ではある。けれど収穫はあった。
　ようやく彼女の違和感の原因が判明した。淑女を演じていたということだ。
　つまりはジャンル違い。
　罵詈雑言を好む性癖は生憎ながら持ち合わせてはいないが、相応しいジャンルを認識出来れば楽しみようはある。
「それにしても、どの様な女性なら……ですか。
　賢しいお嬢様がまた可愛らしい事を仰る」
　万人からとでも言うのならそれこそ夢物語だ。
　この調子でこの人生を歩んできたというのなら、呪いを受けた経緯も何となく知れるもの。
「跪かせる事が目的なら、地のままで行かれる方が良いでしょうに」
　お嬢様ならぬ女王様。成程、よほど魅力的だ。
　見下すような笑みと突き刺さるような苛烈な言葉。口許に手をやりつつ、
「可哀想……可哀想、と。
　でしたら、喜ばれるような愛し方と言うものをご教授願いたい所ですが」
　まるで愛情を夢見る少女の様な物言いに、自然と綻ぶ口許を手袋越しに拭った。



「――イヴお嬢様」
　変えぬ敬称に厭味かと言わんばかりの嫌悪に満ちた視線に、生気を感じれば喉が鳴る。
「今後は私の前ではどうぞ楽になさって下さい。
　恐らくその花はストレス――負の感情で育つのでしょう。
　私が離れる事が一番の特効薬だと申されるのならその通りに致しましょう。
　しかしその場合は、近くの街まで送り届ける事を条件とさせて頂きます。この様な地にお嬢様を独りで残していく等、執事としての存在意義を問われますので。
　元より女性を危険な目にあわせる事等できません」
　望むなら口を紡ぐなりなんなりと、と。胸に手を当てて一礼した。