「どうして・・・・・・こうなった？！」

薄紅色のふわふわな髪を掻きむしりながら九は叫ぶ。

みんなが寝てる間にちょっと変な食べ物を探そうと夜の森に入っただけだ。
姿は陽の光を好む少女といえど実際は悪魔なので闇が怖いなどということもなく…どんどん突き進み、気がついたら川辺に居て、急に現れた偉そうな魔女っぽい何かと大王イカを叩きのめすこととなった。
ゲソの一本でも持って行くかとナイフを取り出そうとしたところで、はたと我に返る。

「・・・・・・ナイフ荷袋に入れっぱなしだった…っていうか、ここどこだ。」

大王イカの足を放り出して辺りを見回す。

「このチカチカ具合は・・・・・・星屑の小川あたりまで来ちゃったのか？」

以前訪れた山の星のカケラが夜目にまぶしすぎて文句を垂れたら、ロマンスがないだの乙女として雰囲気台無しだのいろいろ言われたことを思いだす。
瞼に焼きつくような光の点滅は苦手だ。
何か・・・・・・不安な気持ちにさせる。
そんな気持ちになるような記憶がないのだが。

記憶といえば、最近何か違和感を感じている。
特に、株式会社魔界に入社するあたりから出張旅行に出る直前当たりの記憶だ。

こういうことがあった、という事実は記憶している。当たり前だ。
だけど、その時どう思った、などということが上手く思い出せない。

つまり、記憶に付随する感情が、まるでない。

例えば、今ならねこっぱちの言動にイライラしたり、からかって愉快な気持ちになったり、ネイルが綺麗にできてうれしかったりするというのに。
そういう感情が全くなかった・・・・・・なんて、そんなことがあるのだろうか？
自分でいうのもなんだが、自分はかなり感情の起伏が激しい方だと思う。
なのに、何を感じていたかわからない、なんてことがあるのだろうか？

「まるで、他人の事みたいだ・・・・・・」

ぽろっと口に出てしまえば、背筋がすっと寒くなる。

自分の記憶なのに、自分のモノじゃないように思えるなんて、どうかしている。

「そんなこと、あるわけない。」

あえて口に出す。
でも、消えない焦燥感はなんだろう。

「・・・・・・あるわけない！」

眼をぎゅっと閉じる。
瞼の裏でも瞬く星屑の光。

そして闇夜に光る水色の瞳。

「・・・あるわけ、ないんだ・・・・・・そうだろ・・・・」

弱弱しくつぶやいてしゃがみこむ。
薄紅色のふわふわの髪をかき寄せるように、頭を抱え込む。


一緒に過ごした記憶が、自分のモノじゃないかもしれないなんて。
馬鹿げている。
そんなこと、あるわけない。

―――だって、考えるだけでこんなに胸が痛い。



でも。


これが、万が一にも、自分の記憶でないなら・・・・・・・？


灰色の瞳から、輝きが消える。



「・・・・・・・だったら、オマエは何者なんだ？」