リナ達が森の奥深くを探索していると、ふと、森には場違いな殺風景な建築物に行き当たった。
周囲との調和を拒む無機質さが、その建築物の不審さを高める。
…と、その入り口の前で、男女が対峙している。男の方は、リナには見覚えがあった。
この森の、もう少し浅い場所で出会った、アヴィドという男だ。確か、人探しをしていたはずである。

「・・・っだぁら、通せって言ってんだろうがよ。」

アヴィドの喧嘩腰の視線の先にいるのは、白衣のようなデザインの暗赤色の衣服に身を包んだ、眼鏡の女性である。
そして、女性は一歩も引く気はないようだ。

「研究棟に知らない人は通せないって言ってんでしょうよぉ。ファルマさんは任務に忠実なのです。」

「だぁから、俺はアヴィドだって名乗ってんだろうが・・・ッ！！」

ファルマと名乗った女性の様子に、アヴィドは苛立ちを隠さない。
女性も、それにつられるかのように興奮を高めていく。

「名前だけじゃ知らない人も当然ですったら！！」

そして、ついにアヴィドの堪忍袋の緒が切れたらしい。

「っはぁぁあ！？なにか！？俺の全てを晒せってかぁ！！？
何だてめぇ俺のオンナ気取りか！！？」

「っはあぁぁあ！？誰が誰のオンナですって！？
ヘンテコな服来た浮浪者がッ！！」

（…機密性の高い施設だから、身分を明かせって話なんだと思うけど…）

怒り故にかでたらめなことを言い出したアヴィドと、それと同等の返しをするファルマを、リナはどこか冷めた目で眺めていた。

（………でも、機密があるんだとしたら、気になるわね）

リナがそんなことを考えている間にも、両者の支離滅裂な罵り合いは続く。

「てめぇのほうがヘンテコだろうがぁ！！
レディースの特攻服か何かかそりゃあぁ！！？」

「なッ・・・・・これは白衣ですぅ！それはもう綺麗な白衣だったんですぅ！！
これは日頃の血の滲むような努力の結果なんですよったら！！！」

「マジかッ！！本気で血が出てんじゃねぇか！！！大丈夫かッ！！？」

「大丈夫！ありがとうッ！！」

（………変な流れになってきたわね………）

罵り合ったかと思えば、その勢いで心配したりお礼を返したりしている。
そして、その勢いのままアヴィドが

「そうか良かった！それじゃここ、通るぜ！」

と言って通ろうとすると、ファルマは

「はいはーい！」

と一瞬通しかけるが、すぐに我に返った。

「って、なるかあぁぁッ！！」

（…見事なまでのノリツッコミね…）

アヴィドは苛立ってこそいるものの、思考まで止まっているわけではないらしい。
言葉の応酬だけなら、アヴィドに分がありそうではある。
…が、アヴィドは実力行使を選んだようだ。

「・・・ったく、しつけぇなぁ・・・・・ぶっ殺すぞ？」

「ぶっ殺すなんていう人はみんな実は良い人なんですぅ！
あんたもきっと実はぶっ殺せない良い人に決まってます！！」

実力行使をほのめかすアヴィドに対しても、ファルマはまるで引く様子を見せない。
再び、罵倒語の応酬となった。

「・・・死ねッ！！」

「あんたが死ねッ！！」

しかし、罵倒が行き着くところまで行って一段落してしまったのか。リナ達が、何らかの形で意識しないシグナルを発してしまったのか。アヴィドは、リナ達の存在に気付いてしまった。

「・・・・・ん〜？」

「・・・んん？」

アヴィドに釣られて、ファルマもこちらを見る。
ファルマの視線がこちらに完全に移ったところを見計らうかのように、アヴィドが叫んだ。

「おい大変だぁ！！一揆の連中がここまで来たぜえぇぇッ！！？
」

「なんですってぇぇえ！！？通しません！！通しませんったらあぁぁッ！！」

ファルマの頭の中からは、アヴィドの存在はすっかり消えてしまったらしい。「リナ達の」眼前に、巨大な悪魔が出現した。
その偉容に圧倒されたのか、珍しく、リナの口から弱気な言葉が漏れる。

「…これはまずそうね…やばくなったらすぐ逃げないと」

一揆参加者対ファルマの構図が完璧に出来上がったところで、アヴィドはしめたとばかりにニヤリと笑うと、

「おぉこわおぉこわ・・・・・ほんじゃちょっくら頼むぁ！！」

と、どこかへこっそり逃げ出してしまった。

「しまった…っ」

一瞬焦るが、リナは息を一つついて冷静に状況を再確認した。

（とりあえず、あいつは今度見つけたら伸すとして…この悪魔、見た目はヤバいけど、気配からしてそこまで力の差があるわけじゃなさそうだわ。
そして、彼女達が守ってる研究棟の中には…今の王政にとって、重要か…あるいは、外に知られるとまずいものがある可能性が高いわ）

「………いいわ、暴れてやろうじゃないの！」

リナは、戦闘態勢に入った。