三学期の夏は去った。
地球の裏側から帰ってきた一行を待っていたのは何事も無い日常。
そんな学園生活の一コマ、三・四時限目の連続授業
そう、『調理実習』が始まった。

肩の力を抜くには早い！
ここからがどきどきヒロインクッキングです！！

ほら、言ってる傍から……。
ドスン！！
ドスン！！！

恐らく、張り切っちゃってるどなたかでしょう。

ドスン！！
音の正体は、少女が巨大なブロック肉を強かに叩く音であった。
さて、他にも普通じゃないハンバーグを作ってる方がいるみたいですが？

柊　魔異はこの日、家庭科の授業に出席していた――筈だった。

来る予定であった家庭科の教師の姿は消え、予定されていた授業は唐突に「料理対決」などというものに変わったのだ。
しかも、料理をするのはヤサカ、明日香、冬花の三人のみ。残りは全員審査員だなどというのだから、始末に終えない。

そうして彼は、そんな中で最高審査員というみょうちきりんな役回りを押し付けられたわけである。
三名の作るハンバーグを食べ比べ、最も出来のいいものをみんなで選ぶのだ。

ヤサカは学ランにハーフエプロンをつけ、調理場で調理をしている。
そしてその調理場には高級食材がごろごろと転がっている。

手馴れた手つきでハンバーグを捏ねながら、コンロで付け合せの野菜やスープの準備をしている。

実習室に美味しそうな香りが漂い始める。

持参した薄桃のエプロンを身に付け調理台に向き合う。
タマネギをみじん切りにする手つきは危なげなく、少女の周りに揃えられた他の材料も無難な物。
可もなく不可もない少女の料理の腕を知る少年は、静かに安堵する。
と、タマネギを切り終え、それらを改めて見回した少女が、ことりと首を傾げた。

（シャラシャラランとOPっぽい曲をバックに流れ出す渋い声）

――世界に歪みが生じている！
あなたたちは確かに闘技大会の会場にいた筈だ。けれど、この空間はそれではない。
それはある種の物語。現（うつつ）と異なる虚構のもの。
異なる《世界》があなたたちの前に表出している！
どうやらこの物語自体があなたたちの対戦相手であるようだ。
この空間を破壊しなければ、瞬く間に萌え４コマクソラブコメの世界に取り込まれ敗北してしまうだろう！

http://p.tl/J13k