<Days22>


「これは嬉しかったよね」

　私はそう言って腕にはめたブレスレットに触れる。
　シルクで作られた赤いリボンで編まれたこの小さなブレスレットはルーシェちゃんが私のためにと編んでくれた物だった。
　少しばかりぎこちなさはあるけれどそれは彼女の気持ちのこもったとても暖かい贈り物だった。
　この世界に来て、まだ日は浅いけれど、友達と呼べるような相手ができたことが私には嬉しかった。
　このブレスレットを見ていると、なぜか口元に笑みが浮かんでくるのを私は抑えられなかった。

「でも……私にも本当にできるのかな？」

　ブレスレットを貰った時に、作ることは結構簡単で私にも作れる物だという。
　自分でも作ってみたいといった私に「今度一緒にやってみませんか？」とまで言ってくれた。
　私にはそれがとても嬉しかった。
　その後二人は話し合いいつにするか相談して、それが今日これからの約束だった。

「今日こそちゃんとお礼をしないとだよね」

　私はベッドから立ち上がると、彼女の部屋へと向かった。


　§§§§§§§§§§§§§§§§


「ルーシェちゃんいる？」

　私は彼女の部屋をノックしてそっと扉を開ける。
　部屋の中では彼女がちょうどお茶を入れる準備をしているところだった。

「あ、いらっしゃい、来る前にお茶でも入れておこうと思ったんですけど、間に合わなかったみたいですね」

　そう彼女は照れたような笑みを浮かべた。

「あ、いいよ。お構いなく。それより早く始めたいなって思うんだけど」
「そ、そうですね。早速準備をします」

　わたわたと準備を始める彼女の仕草がどこかおかしくて思わずくすりと笑みがこぼれる。
　私のその笑みを見て、彼女は少し頬を膨らませて文句を言う。

「祀さん、何ですか？なんで笑うんです？」
「ごめんごめん、なんかそうやって慌てて準備してるの見てたら、ついおかしくって」
「ひどいですよ、そういう事言うなら教えるのやめちゃいますよ？」
「あ、それは困る。ごめん。もう笑わないから」

　顔の前で手を合わせて謝る私の姿を見て彼女はよしと小さく頷いた。

「ふふっ、冗談です。すぐに準備しますからその辺に座って待っててくださいね」
「はーい」

　私は素直に返事をすると近くにあった椅子に座って、彼女が準備を終えるのを待つことにしたのだった。

「お待たせしました、それじゃ始めましょうか」

　しばらくして準備を終えて、いくつかの色のシルクのリボンを用意して待っていてくれた。


　§§§§§§§§§§§§§§§§


「祀さんはどの色のリボンを使いますか？」
「んーそれじゃ白で」

　しばらくどれにするか悩んだが、彼女に似合うとしたら白いリボンだろうと思った私は目の前においてあったリボンを手に取る。

「白ですか、きれいな色ですよね」
「だねー、清楚な色って感じだよね」
「ですね」

　彼女のイメージがそのまま清楚だったというのもあり、私はついそんなことを言ったが、彼女は特に疑問には思わなかったようだった。

「気がつかれなかったよね……？」
「何か言いましたか？」
「あ、ううん、なんでもないなんでもない、ただの独り言だよ」
「そうですか？

　私が小さく呟いたのに彼女は聞き返したが、何を言ったかまではわからなかったようで、私は慌ててごまかした。
　どこか私の態度に怪訝そうに見つめ返してきたが、気にしないことにしたのか、再び彼女は説明に戻ったのをみてほっと胸を撫で下ろした。。
　今度は私が彼女に贈り物をしようと思ってるというのはその時まで秘密にしていたかったからだった。
　しばらく説明を聞きながら試行錯誤ながら、時には談笑を挟みながら少しずつその手を進めていった。

「こ、こうかな？」
「そこはちがうよ、こうやって、こうですよ」
「なるほど、それじゃここはこう？」
「ですよ、祀さんもわかってきましたね」
「そうかな？でもルーシェちゃんのように手早くできないし……」
「そこは慣れですよ、何度かやってればできるようになりますよ」

　そんな会話をしながら私はようやくそれを形にすることができた。

「完成〜、やればできるものだね」
「思ったより飲み込みが早かったですよ。結構スジがいいんじゃないでしょうか」
「そ、そうかな……？」

　改めて面と向かって言われるとこそばゆく私は照れ笑いを浮かべていたが、内心かなり嬉しかった。

「それにしても…、何もそこまで私のあげたものとそっくりにしないでもよかったのに……」

　作っている途中からずっと似たデザインにしようとしていたのを気にしていた彼女はそう苦笑する。
　それを見て私はもったいぶってこう言った。

「それにはね、ちゃんと理由があるのだよ。ルシエ・ソルブランシェ君」
「訳ですか？」
「うむ」

　聞き返す彼女に私は仰々しく頷いて見せた。

「それはどんな……？」
「それはだね……」

　私はそう言いながら彼女の手を取りそっとそのできたばかりの白いシルクのリボンでできたブレスレットを彼女の腕にそっとはめた。

「こういう事ですよ」
「え？」

　私のとった行動に彼女は明らかに戸惑っていた。

「ルーシェちゃんにも手作りのブレスレットあげたくてね、できたらお揃いのがいいなって」

　私は彼女の作ったブレスレットと私の作ったブレスレットを並べて見せた。

「ね？サプライズプレゼントってやつだよ」
「あっ…。…ありがとうございます」

　どこか照れくさそうにしかしうれしさの混じった笑みを彼女は浮かべたのだった。


TobeContinued……

今回の日記はルシエ・ソルブランシェさん(2010)のお名前をお借りしました、感謝！！

ファンからの差し入れは受け取ってはいけないというルールがあったのだが、最近は割と忘れているようだ

そう自信がなさそうに話す祀に一緒にやろうと誘います。

祀は鞄の中から包みを取り出すと、少し恥ずかしそうにしながらその包みを差し出しました。
祀によると、彼女のいた世界ではバレンタインデーという日に親しい人にチョコレートを渡す風習があるとのことです
。

祀が差し出したチョコレートの包みをルーシェはとても嬉しそうに受け取りました。