「えーっと、確かここがこうで…」

宿で、リナは紙を前に机に向かっていた。

「…何、してるんですか？」

エスカーラがその後ろから覗き込む。リナは、エスカーラの方を見ずに作業を続けながら、

「この前の屋敷探索の地図を作ってたのよ。自分でやった分はその場で軽くメモしてたんだけど、それをもうちょっと綺麗にしてまとめるのと…あと、仲間が調べてた分を聞いてその情報も追加してるの。
…こうしてると、次に行くときの探索が捗るでしょ？」

と答えた。それを聞いたエスカーラは、

「…えっ、またあそこ、行くんですか…？」

と、露骨に狼狽える。ここでやっとリナはエスカーラの方を向いた。

「すぐと決まったわけじゃないけど。一揆的には闇雲に突撃してってもしょうがないでしょ？
情報はあるに越した事ないし。

…怖い？」

表情を伺われて戸惑ったエスカーラだが、少し間を置いて、恐る恐る

「………は、はい…
どうも、お屋敷の中のエンブリオって不気味な感じがして苦手ですし………それに…あそこ、リナさんの本気の魔法で崩れそうで…」

と答えた。リナは、それを聞いてふっと表情を緩める。

「そう…分かったわ。次に行くときには、調査に支障の出ない範囲で加減してみましょう。
…建物が崩れたら、それこそ本末転倒だし」

流石に骨組みは大丈夫だと思うけど…と優しく笑いながら付け足しつつ、リナはエスカーラの柔らかい髪を軽く撫でる。

「…でも、あの手の情報を調べるのも、「人間」のことを知る良い機会だから。
少しずつで良いから、気持ちの準備だけはしててね？」

「ぅ…」

少し固まるエスカーラに、リナは明るく笑った。

「大丈夫よ。あなたも私の力になれる子なんだから。
自分を信じなさい。『あんな不気味なのに負けない』ってね」

「………は、はい………」

エスカーラは、神妙な顔をして頷いた。