砂の大地の只中、打ち倒された鬼の子が、か細い息を漏らしていた。
かつての私と同じ姿。

吹き荒ぶ暴力の通り過ぎた後、息だけしかできない無力にうち伏せる、諦めに似た虚無感。
研ぎ澄まされるのは、そよ風さえをも針に感じるような鋭敏な痛覚だけ。
胸に空いた穴を埋められるものなど、ひとつもありはしなかった。

かあさんのくれたぬくもりでさえ、その虚ろの前では意味を成さない。
それは私を暖めはしたが、穿たれた空虚をふさぐような、強い力には欠けていた。
多分かあさんも私と同じく、どこかで多くを諦めていたのだ。
同じ部分に穴の空いたこころ。その穴を何で埋めるべきなのか、私たちは互いに知らなかった。

そして今、目の前で地に伏した鬼の子。

鬼という種族に、左右のふたつが揃った角に、屈託があったのは間違いない。
けれど誓って、害そうとは思っていなかった。
そのとき自分が何を告げようとし、あるいは何を聞こうとしたのか、もう思い出せない。

声を掛けようとその肩口に指を触れたその瞬間、鬼の子の肉体が “ほどけた” からだ。

触れた肩近くから、雪の人形が陽に融けるさまに似て、しかしそれよりもずっと素早く。
足の先から角の先まで見る間にほどけて形を失い、手を離れていた棍棒だけがその場に残る。
最後にほんの僅か、冬の朝のような心地よく冷たい空気が、私をさっと撫で払っていった。

やがて、一連の現象を為すすべなく見つめていた私の耳に、ふと柔らかな声がした。
いつか聞いたようで、一度も聞いたことのないようなその声。

声はみずから、真朱と名乗った。

話を聞いてか聞かないでか、プルは一方的にずいずいと燈子に近寄った。