[ side of Krisna　]


本当に、ひょんなことで妹は見つかった。

「この娘ならさっき見かけたよ」

昼下がり、どこか陰気そうな男に言われてさほど期待もしていなかったのだが。
怪しい路地裏に入るころには、身の危険も感じ始めていたのだが。
ほんとうに、いたのだ。知らない男と一緒に。

「チャンディー！」

私の声に振り返った少女は驚いたあと、なんともいえない柔和な笑みを浮かべた。
安心した、というような顔ではない。なにかとても愉しそうな顔に私は見えた。
その顔に二の足を踏みそうになった身体を無理やり前傾姿勢にして近づいて
その少女の、妹に触れる男の手を握り捻った。

「あなた、誰？　知り合い？　邪魔よ。どきなさい」
「ううん。ごめんね、おじさん。こういうことだから」
「な、なんで……ア、イテテテテ！　わかった！　わかった！　くそ！」

男は私と妹と陰気そうな男を恨みがましく見て驚き去って行った。
妹の様子からも知り合いだったようすもなく、それでいて気安すぎた。
会えた安心感より目の前の少女が自分の知っている妹だ。
そう言い切れない信じ切れない違和感を覚えて、思わず声に出していた。

「……どういうこと？」
「ん、おにーさんさっきはありがとうね」
「どういたしまして」

妹を見据えて話す私をすり抜けて、妹は私の後ろの人物に声をかけた。
どこか陰気そうな男も先程とは違う、愉悦に満ちた鮮やかな笑みを浮かべている。
すごく嫌な感じがした。なにかとても嫌なものに観察されているような。
妹の身体をしっかりとかばって抱きながら、男に問いを投げ直した。

「どういうことよ？」
「お客さんをね、探しているというから、ほら、さっきの人を……」

言葉の意味を理解する前に耳の奥が唸るような感覚を覚えた。
弾き出されたように拳を握って男の横っ面に殴りかかり、押し倒しにかかった。
その腕が虚空を切る。男は知っていたかのように距離をとって、斜に構え笑って見せた。

「そんな目で見ないで欲しいな。僕は頼まれて紹介しただけだよ。他になにもしてないんだ」
「ひとの妹をなんだと思ってるのよ！！」

怯まず言い返してきた男に拳の突き立て場所を失って、私は吼えた。
その腕に両手を寄せて胸の中の妹が優しい声でつぶやいた。

「おねえちゃん、いいんだよ。おにーさんはたすけてくれたよ」
「助けたって、あんなのは」
「わたしはそうやっていきてきたの。おねえちゃん」
「ほんと、なの？」
「うん、ずっと」

力が抜けていく。考えなかったわけじゃなかったが。
現実としてはまだ受け入れられない。とりあえず腕の中にいるのが妹なのは確かだ。
実感としてゆっくりとその重さとともに染み込んできた。というのに。
男がヘラリと笑顔を浮かべて話に滑り込んできた。

「理解してくれたら嬉しいよ。どうする、他のひと紹介しようか？」
「煩い、消えて」

自分でもいつ振り抜いたかわからなかった。
湾曲した刀を下から掬い上げるように振り上げ、男を視線で舐め上げた。
男も今まで見せたことない顔で驚いたように後ずさって頬を押さえている。
妹だけが驚いた様子もなく私の胸元を軽く非難するように握り締めた。

「おねーちゃん、かわいそうだよ」
「そうね。もう用はないわ。行きましょう」
「うん、おねーちゃん。もう離さないでね」

その言葉は胸をチクリと刺した。
もう、そこには二人以外は誰もいなかった。

* チャンディーと再会しました *

考える素振りを見せるも、

と左手を軽く上げた。

説得を試みるが、
前に立つドロワとリーゼロッテは、臨戦態勢を解く気配がない。

渋々と銃を構えた。