『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.07.20.13:40、とある戦場にて――


　焼き付いた記憶と複雑に絡み合う感情。
　そいつが誰か、そして、この酷く面倒な感情が何かを俺は知っている？

　疑似的感情はこの複雑な感情に嫌悪と、不快感を示していた。
　人間で例えるならば、反吐が出る……と言うのだろうか。

　しかし、記憶の中のそいつは現状を打開する方法を示していた。

　疑似的感情を切る。
　感情に流されることなく、最も効率の良い手段を選択出来る方法である。

　俺に与えられた命令は、『被害を拡大させる前に敵を葬ること』だ。
　それが最優先の事項であるならば……





　再起動までに要した時間は判らない。判ったとしても、
時間の改竄は容易いから、信用は出来ない。しかし、
かなりの時間は経過しているのだろう。尽きかけていた
エネルギーは十分に補給されており、窓の外は夕日に染まっていた。

　改竄……本当に改竄されているのかもしれないな。
　核に焼き付いた記憶の違和感は、記憶の欠損だけが原因と
思えなかった。何か、疑似的感情に訴えかける何かが、記憶として
焼き付いてしまっている。それを、俺のマスターや周囲の関係者達が
隠したがっているような……そんな気がする。
　杞憂かも知れないが……


　ベッドと棚と窓のみの簡素で狭い病室。人間と同じような扱いだが、
疑問はあれど別に悪い気はしなかった。自律型ロボット故に
人間と同じ扱いをしているらしい。
　俺は修理が終わった後、この個室に運ばれたようだ。

　視界に金色が入った。白い病室、白い家具の中で一つだけ
目立つ色だ。それを認識して、俺は目を疑った。
　ウエーブのあるゆったりとした長い金髪……グローリア博士が、
ベッドで俯せになって眠っていたのである。その膝には最新鋭機の
ロボットをデフォルメにした縫いぐるみを抱えていた。
「博士……？」
　博士は気持ちよさそうに眠っていた。
　時計に目をやると、日付は翌日、時刻は午後の五時を回っていた。
最後の記憶にある戦闘から一日以上経過しているようだ。
　今の状況を知りたいが、彼女を起こすのは気が退けた。その一方で
ぽちの言う『恋煩い』とやらが、再び沸いてくるのだった。
「……博士、この気持ちは何なんだ？　俺はどうすればいいんだ？」
　眠る博士の髪に触れようとして、その手を止めた。
「ツルギ〜♪」
　呑気な歌と共に、窓からぽちが飛び込んできた。