さっきのキノコさんは中々面白い人（？）だったッス！
お土産にキノコももらっちゃったし、一揆って楽しいもんッスね！！
しかし、森はやっぱり落ち着くッス。
どことなーく、故郷の山に似てる気がするッスよ……。

……。

べ、別にホームシックじゃないッスから！！
まったくもう！誰かが聞いてるわけじゃないッスけど、ちゃんと否定はしておかないとっ。
ついつい弱音言いたくなっちゃうッスからね！
自分もまだまだ、修行が足りないッス！！


んー、運動もしたし、ご飯食べたら眠くなってきたッスねー。
日も暮れたし、今夜はここで野宿するッスよ。

ふぁ、こういう気分の時はさくっと寝るッス。
寝て忘れるに限るッス。
おやすみなさーい。


＊＊＊＊＊＊＊＊

夢の中に、祖父がいた。
私はまだ、とても小さな子どもだった。

祖父は言った。
その色眼鏡は、決して外してはいけない、と。

朝起きたとき、
外に遊びに行くとき、
ご飯を食べるとき、
夜眠りに就く前、
祖父は必ず、幾度も幾度も、私を正面に見据えながらその言葉を繰り返した。

「分かってるッス、じいちゃん」

ほら、今だって、ちゃんと外してないでしょう？
大丈夫。じいちゃんとの約束を違えたりなんてしないから。

でも、どうして外してはいけないのかな。
この眼鏡を掛けていると、相手の持つ本当の色が見えなくて、
私はそれが、ほんのちょびっとだけ、寂しいなどと思ったりする。
少しだけなら、良いのではないか。
誰もいないときに、少しだけなら――

私は手を持ち上げる。
手袋越しの硬い手触り。
細い“つる”を掴んだ瞬間、

私の手は硬直した。

―　コレハ　ハズシテ　ハ　イケナイ　―

＊＊＊＊＊＊＊＊

「っは！！！」

飛び起きた。
まだ日も昇っていないらしい。
辺りはしんと静まり返っていて、自分の鼓動と息だけがうるさく怒鳴っているようだった。

酷い寝汗だ。
なぜだか頭も痛い。
よく覚えていないけれど、最悪な夢だったことは分かる。

「……後で、沢に下りて体洗おう……」

息をついて、寝袋を包めて仕舞う。
ふと、視界の端で何か動いたような気がした。
視線を巡らす。
暗闇に、薄ら明かり。

「あれは……」

書物で見た記憶のある聖獣。
一角を持つ清らかな守護者。

「ユニコーンっす！！」

煽てられて得意げな顔で楽しげに語り出す。
しかし、ふと何かを思い出したかのように、その表情はすぐに消えた。

まるで自分に言い聞かせるように、どこか遠い景色を見つめてそう呟いた。

現れた時と同じ仕草でフェイクは去っていった。