（日記はぐちゃぐちゃだ、破けて爪で引き裂いた痕がある。）







※以下もろもろ注意。



一人は気楽だ。
エンブリオがいるから寂しくもない。

「っキア！」

！　この名前を知ってるのはあまりいない。
驚いて振り向けばアイツがいた。

『・・・狼、』

「久しぶりだな、相変わらずアイツは生きてる。
　この世界にもいるみたいだ・・・会っては・・・ないな？」

近くによったことで自分よりも幾ばくか高い背がわかる。

『まだ会ってない。見かけたら攻撃してる』

「それもそうか、・・・何のようでまたここに・・・。
　とにかく気をつけろよ、一応だけどあいつつええから」

『・・・わかってる、君はどうするの』

少し口を噤んでいるのがわかる。小さな声で、返事が来た。

「あいつの動向を追うよ。お前を待ってたけど・・・どうすんだ」

『・・・ここでネクターを手に入れて・・・それであいつを倒すんだ』

「・・・わかった、手に入れたら教えてくれ、場所を教えるよ」

『ありがと、君も気をつけて』

手を振ればあいつも手を振り返した。
笑顔は変わらない。クロンといたころのあいつの笑顔だった。

踵を返す。次は山岳だ、そこにいいエンブリオがいると聞いた。
歩みを進める。気持ちのいい風が吹く。


〚やぁ、久しぶりだな〛


その声は　とても知ったもので

　探してた　　探しすぎたほどの

　　　　殺意を抱く　その声

　あまりに唐突で　突然で　何も出来ない。

『・・・なんで・・・』

早すぎる　今は何も出来ない　自分は無力だ

〚くく、クロンが失敗したから残り香を探しに来ただけさ。
　・・・お前、・・・今はセシルと名乗ってるんだっけ？〛

相変わらずの兎耳だねぇ、と嗤う。
嫌な笑み。
背筋が冷たい。緊張で手足も冷たい。動けない。
喉が乾いて口の中が粘着く。

『だから・・・何なのさ・・・』

〚君を迎えにくるよ。存分にここで力をつけるといい。
　クロンは体力がなくて失敗した。その分君は体力がありそうだ。
　・・・いい贄になる〛

くすくすと嗤う。嗤う。嗤う。
逃げなければ。今は違う。今じゃない。

『ご、ごめんだよ、そんなの・・・イヤなのだ、』

震える声でそう返すと相手は自分を上から下まで視線を移す。
嫌な視線だ。震える足を叱咤する。

〚折角会えたんだ、ちょっと味見してこうかなぁ・・・〛

『は・・・―――！！』

間抜けが声が喉から出る、その瞬間自分は

相手に頭を押さえられ、押し倒される。
手をまとめられ、足を押さえつけられる。

片手で軽々と押さえつけられ、痛みで顔が歪んだ。

もう片方の手の動きに　目を見開く。

『やめろ、何するんだ・・・！』

〚・・・へぇ、まぁいいか。何ただの味見だよ、嫌なら眼を瞑ってればいいし、そうじゃなきゃ愉しめばいい〛

エンブリオは助けられない。
助ける力などない。
狼の気配もない。

助けは、ない。

『・・・っやだ、や、・・・・―――！！』


自分が何かを叫んだ気がした。

何を叫んだか・・・覚えていない。

叫び声は闇に消えていく。