ここに来た理由なんて、すごく単純な理由だった。
　前にサヤが「ノールというのに興味がある」みたいなことを言ってたから。
　ちょっと休んだらいってみようとか、そんな程度の理由だった。

　新品同様に治ったとはいえど、ボクも女神像がずらっとしてる水路のそばとかちょっときつかったし。
　マシェもエンブリオのおかげで何とかなったとかいってても、傍から見てどうだろう？　もあったし。

　……ひとりだけなんか、ひたすら超ぴんぴんだったけど、まあそこはいいとして……。
　……ぷすぷすいって、こげてなかったっけ、全身……すごい回復力だなあ……。


　だから、干からびた不毛の大地とはいえど、見通しがいいところのが、安全確保もしやすいだろうな、とか。
　そんな程度の、かんたんな、理由。


　だったんだけど、忘れてたんだ。


　見通しがいいってことは、それは同時に、隠れられないってこと。
　狙ってくる害獣からも、見つけやすいし、向かいやすいってことだって。
　例えキケンに気づいたとしても、逃げるより相手のが早かったら……当然追いつかれてしまうってことを。


　やっぱりそこまで本調子じゃないのもあって、木陰に少し座り込んで、マシェを囲んでの休憩中。
　とうとつに、サヤがすっと立つ。
　だまったまま、ある一点を、空のほうの、遠くを見る。


　遠くにみえるのは、特徴的な紅いコウモリの、群れ。
　夕日の光と間違えるくらいに、たくさんの、紅いコウモリの、群れ。
　って、あれ、ぜんぶ、コウモリ……？　１・２……ぅぁ……たくさんだ……。
　……スッゴイ……いやーな、かんじが……。

　そして、視線をもどせば、まだ少し顔が蒼い、マシェ。

　走れば、あのコウモリの群れから、逃げ切れる？
　……無理じゃないかもしれない。

　だけど、この不毛の大地で全力疾走は、マシェが潰れかねない。
　逃げ切るのは、無理じゃないかもしれない、けど、しょうじき、あぶない。


　サヤが穏やかではない表情で、大鎌を現出する。
　千巌に一瞬目を向けるとコウモリの群れを見て、息を一つはいて、構える。
　こくり、千巌も首を縦に振れば、マシェの盾になるようにすっと立つ。


　……だよ、ね……。


　迎撃だ。
　いっぴき残らず、はたき、落とす。

近付いてくるうしあたまを見かけて、くびをこてんとかたむけます。

敵意があるわけではないとわかったのか、手をちたちたとふって答えます。
たどたどしい、単語が並びます。

シャリン――、シャリン――
　どこからともなく音がする。

　　　シャリン――、シャリン――
　　　　それは、だんだん近づいてきている、そんな気がする。

小さく呟くと紗綾の手に大鎌が現れる……！

そうめんが茹で上がった

コウモリが一匹、太陽に向かって飛んでいく