〜とあるサラマンダーの手記〜

空より降ってきた少年と共に旅を始めて２０日になろうとしている。
日々繰り返される戦闘によって、俺たちは成長した。
この俺をはじめとして数々のエンブリオとの契約によって。
時には、新たなエンブリオを迎えるために古いエンブリオとの契約解除すら。
そうして、少年は少年へと成長する。
それは偏に、他の一揆民と共に王の元へ辿り着くために。
取捨選択、離合集散は世の必然。

いずれは、俺も必要とされぬ時が来るのだろうか。
ふと、そんなことを思う時もある。
少年が、少年たるために必要とするものの中に俺の居場所はあるのだろうか。
偶然森の中で出会った。
そんな微かな情によってのみ繋がる関係であるのならば。

そもそも、少年はこの世界、メルンテーゼの民ではないと言う。
ならば、いつかは少年の世界へ帰る時が来るのだろう。
それは、少年が王の元へ辿り着き、一揆を果たしたその時か。
それは、志半ばに膝をつき、前進をあきらめたその時か。
今日でないと言えるのか。
明日でないと言えるのか。

果たして、それがいつ起こることであっても、俺はそれを拒むことは出来ない。
それが、エンブリオたる俺と契約者たる少年の絶対的関係。
決して覆すことのできない世界の法則。

ならばせめて、悔いなく生きよう。
…と言うわけで。

ふう、やれやれだ。
所詮少年はまだまだ子供、俺がいないとにっちもさっちもいかないらしい
明日もいい天気だといいなあ。
どうせなら暑いところに行ってくれると、なお良い。
水辺とかは全力でお断りしたいところだ。

正しくは収穫の方なのだが、伝聞の間で認識が食い違ってしまったようである。
それを突っ込む人間もこの場にはいない。

これは単純な興味か。チャチャカに聞いた。

エンブリオの存在よりも契約が大事という話を聞いて、ふむ、と一度ばかり頷いて。

訊いても仕方のないことを、ぽつり、こぼした。

ヒソヒソとサラマンに耳打ちしているが、内容があまりにもあんまりだ。